第3話

文字数 589文字

 筋肉バカが出て行って半年ほど経った冬の初めに、恋人は荷物をまとめ、俺を連れて車に乗った。どこに行くか尋ねてもなにも答えない。車の外の景色はどんどん自然豊かになっていく。恋人の顔はこころなしか晴れ晴れしていた。俺は嫌な予感がした。これは無理心中ではないか。俺は車の運転を止めさせようと恋人にとびかかったり外に出ようとして暴れまわったが、恋人は馬鹿力で俺を押さえつけて、紐で固定した。
 俺はあきらめてぐったりとしていた。外の景色が綺麗だった。灰色がかった木々はやさしく、主張が少なかった。
 車が止まったのは大きいログハウスの前で、筋肉バカが大きな犬を連れて、ニコニコしながら立っていた。筋肉バカはかつてはつるっとした顔をしていたが、なにかの復讐のように顔中に毛を生やしていた。恋人は俺を固定していた紐をほどき、筋肉バカに歩み寄って...抱きついた!
 俺は絶句した。ばかみたいな感想だけどアメリカ映画みたいな展開だと思った。
 ふざけんな! と俺は怒りまくったが2人はあまり気にしていないようだった。
「なに怒ってんの、みっともない」
 筋肉バカの隣の大型犬があきれた声色を出した。俺は更に怒った。
「は? 普通怒るだろ! 彼女が友達と目の前でいちゃついてんだから」
 俺は筋肉バカに体当たりしながら答えた。筋肉バカはこちらを見もしない。大型犬は言った。
「何言ってんの、あなた子犬じゃない」
 
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