06
文字数 723文字
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「私はここにいるじゃないですか、リクさん。私は貴方のものじゃないですか」
何を言ってるんだ、といったような声でリツはそう言った。先程まで見えていた希望は、既に音を立てて崩れ果てたはずだった。それなのにまだ、その音が聞こえてくる気がした。嗚呼、ここは研究室だ。非科学的なものなどいらないはずだ。それなのに今、神にも何にも縋りたくなっているのは何故なんだ。
「……違う。違う! 違う!!!」
衝動的にスイッチを手に取り、強く押した。ガイノイドはその途端に命を奪われ、再びステンレスに横になった。ちゃんと目を閉じたその様子は、死んでしまったあの時と似ていた。
「俺が欲しいのは、何も疑わなかったあの時のアイさんだけなんだ……!!」
この三年間、彼女との間には何もなかった。彼女が、ずっと側にいた研究員に対して何も思っていなかったことは十分に分かっていた。それでも、俺が錯覚し続けていた、あの幸せな時間に存在していた彼女に、もう一度会いたかった。
だから、殺した。夢から覚めた彼女はもういらなかった。だけど、“夢”に存在していた彼女の記憶だけはどうしても欲しかった。その記憶を形にするために、俺は彼女と同じ外見をしたガイノイドを作った。そこに必要なだけの彼女の記憶を移し込めば、そこには求めていた完璧な合沢璃津が現れるはずだった。
――なのに、こんなに求めているのに、どうして現れてくれないんだ。
「……アイさん、どうして」
俺はリツから出ているコードの先を見上げた。そこには、首に首輪のような痣をつけて、防腐処理を施されてケースに保管されている女性の死体があった。
とうに返事をしなくなったアイさんにかけた言葉は、溜息と同じく空に溶けていった。
fin.
「私はここにいるじゃないですか、リクさん。私は貴方のものじゃないですか」
何を言ってるんだ、といったような声でリツはそう言った。先程まで見えていた希望は、既に音を立てて崩れ果てたはずだった。それなのにまだ、その音が聞こえてくる気がした。嗚呼、ここは研究室だ。非科学的なものなどいらないはずだ。それなのに今、神にも何にも縋りたくなっているのは何故なんだ。
「……違う。違う! 違う!!!」
衝動的にスイッチを手に取り、強く押した。ガイノイドはその途端に命を奪われ、再びステンレスに横になった。ちゃんと目を閉じたその様子は、死んでしまったあの時と似ていた。
「俺が欲しいのは、何も疑わなかったあの時のアイさんだけなんだ……!!」
この三年間、彼女との間には何もなかった。彼女が、ずっと側にいた研究員に対して何も思っていなかったことは十分に分かっていた。それでも、俺が錯覚し続けていた、あの幸せな時間に存在していた彼女に、もう一度会いたかった。
だから、殺した。夢から覚めた彼女はもういらなかった。だけど、“夢”に存在していた彼女の記憶だけはどうしても欲しかった。その記憶を形にするために、俺は彼女と同じ外見をしたガイノイドを作った。そこに必要なだけの彼女の記憶を移し込めば、そこには求めていた完璧な合沢璃津が現れるはずだった。
――なのに、こんなに求めているのに、どうして現れてくれないんだ。
「……アイさん、どうして」
俺はリツから出ているコードの先を見上げた。そこには、首に首輪のような痣をつけて、防腐処理を施されてケースに保管されている女性の死体があった。
とうに返事をしなくなったアイさんにかけた言葉は、溜息と同じく空に溶けていった。
fin.