2.

文字数 617文字

 彼の名前はマサトくん。売れない小説家だ。作風は退廃的で暗く、ラストは必ず何の救いもない形で終わる。
 まあ、小説だし、こういう作品が売れないと決まった訳ではないけれど、マサトくんの作品はどっか中途半端で浅いのだ。
 しかし、私と付き合い始めたことで、彼の作品はダークな部分の描写に磨きがかかった。
 そりゃそうだ。なにせ私と一緒にいるだけで、マサトくんはちょこちょこと大小の不幸に見舞われる。実際の不幸な体験と、それに伴う苦悩や苦痛が、作品に反映されるのだ。
 財布を落とすなんてしょっちゅうだし、人に貸したお金は上手くはぐらかされて返ってこないし、この間は銀行のATMで現金を引き出そうとしたら、何らかのエラーでマサトくんのキャッシュカードが盗難されたカードとして登録されていて、後で家に警察の人が来て連れて行かれてしまった。
 こんな体験ばかりしていたら、心がすさんで当たり前だ。しかし、マサトくんの場合、これらの不幸は作品のレベルアップにつながった。
 結果として、マサトくんは作家としての人気が上がって、収入も増えた。貧乏神に魅入られてお金持ちになった、数少ない例かもしれない。
 私は嬉しかった。だって、自分の貧乏神としての性質が、小説家としての彼の才能を開花させることに繋がったんだもん!
 私達には、お互いが必要なのだ。マサトくんは私といることで小説家として成功し、私は私と一緒にいても貧乏にならない彼氏に、やっと出会うことができた。
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