第1話

文字数 1,104文字

 今年(2022年)の2月中旬に、東北から北陸の日本海沿岸にまた大雪が降った。
 山形県庄内地域には蔓延(まんえん)防止等重点措置が発出され、庄内町の飲食店は夜9時までの時短営業だがほとんどの店は閉じている。特に雪の夜は暗く人影の絶えた庄内町にも新型コロナウイルス・オミクロン株感染は音もなく拡大し、町は陰湿な雰囲気に包まれていた。
 そんな夜、BS放送で高倉健主演の映画「駅」を観た。映画の舞台となった厳冬の北海道増毛(ましけ)町の風景は寂しく物悲しげで切なく、冷たく厳しい山形県庄内の冬と重なって見えた。

増毛(ましけ)駅と同じ設定で余目(あまるめ)駅での一場面:
 [場所は冬の余目(あまるめ)駅]新庄(しんじょう)から余目(あまるめ)に戻ると、駅前の小料理屋の女将が駅に迎えに来ていた。女将は新潟に向かう列車を待つ自分を見送る。一緒に来てもいいんだぜ、と言う誘いを、女将は「私、しつこくないから」と言って断った。しかし、自分が仕事をしに余目に戻って来ると話すと、女将は嬉しそうな表情を見せた。
 [駅のアナウンス]「只今から新潟行特急いなほ14号の改札を始めます。」

 と、これを高倉健のように孤独の影を背負い、口数も少なく渋く演じられたらいいなあと思った(←やっぱり無理か…?)。人は人生という線路の上を、いくつもの駅へ降り立つ。駅には出会いと別れがあり、喜怒哀楽が錯綜(さくそう)する。
 が、現実は厳しい。駅が舞台になるためには演出する人が必要だ。JR余目駅の駅員は日中の2名で、夜から翌朝までは無人駅だ。特に映画の舞台になる始発、最終列車の時間に駅員がいないのだ。
 写真は2015年1月29日午前5時37分、余目駅3番線ホームに進入する羽越本線上り特急「いなほ2号」である。余目駅の上り始発列車である。
 ホームに積もった雪には足跡ひとつない。

 その列車にひとりの女性が乗った。見送る人もなく、構内放送もなく、雪の静寂の中、無音のまま去って行った。


 ところで余目駅4番ホームは、アカデミー賞受賞映画「おくりびと」のロケ現場である。美香(広末涼子)が立っていた場所にはステッカーが貼ってある。
 また旅が好きだった松本清張は、昭和31年9月号「旅」に、「時刻表と絵葉書と」というエッセイを発表している。その中で「私には時刻表は別な意味がある。例えば、今これを書いている時刻は、12時25分であるが、その時刻には、山陽本線では…。信越本線では…。羽越本線では山形県の余目という小駅に上野発の列車が到着して発車したばかりである。すると、私には…。」と余目駅がでてくる。『点と線』の連載が始まったのはその約1年後のことである。
 余目駅はそれなりの駅なのだ。
 皆さん、ぜひお立ち寄りを。
 んだ!
(2022年2月)
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み