第1話

文字数 1,099文字

 夏はビールに枝豆だ。
 その枝豆で目が白黒するほど苦しい目にあった。危なかった。

 豊穣な庄内は米だけではなく枝豆も美味しい。庄内で採れる枝豆には、有名な「だだちゃ豆」のほかにも「庄内茶豆(しょうないちゃまめ) 1号・3号・5号・7号」「庄内たがわちゃまめ」など多種類ある。どれも甘味と香りのバランスの取れた奥深い味わいである。
 私はパンパンに身が詰まった少し硬めの枝豆が好きだ。東京のチェーン店の居酒屋で食べる(失礼!)張りのないべちゃッとした枝豆は歯応えもなく口の中が寂しくなる。
 写真は2015年7月5日に撮影した、町内にある行きつけの居酒屋の枝豆である。見るからにプリプリで弾力のありそうな豆だ。特記すべきは塩が振り掛けられていることだ。さやを口に含んだ時の、この塩味がたまらない。

 今年の真夏日の夕方、いつもの居酒屋のカウンターにいた。
「生ビールと枝豆下さい。」
「はいよ~。」
 枝豆のさやを口に含む。塩味がする。親指と人先指で豆を押す。
 プツンっ!
 枝豆が豆鉄砲のように口の中に押し出される。舌で豆を奥歯に誘導する。噛む。広がる枝豆の甘味と香り。
 ごくッ!
 ビールを流し込む。ふ~、満足感。
 塩味。プツンっ! 噛む。ごくッ! ふ~、満足感。塩味。プツンっ! 噛む。ごくッ! ふ~、満足感…。塩味、ちょうど息を吐き終わったその時だった。プツンっ!!
 コホッ
 口の中に勢いよく押し出された枝豆が口蓋垂(こうがいすい)(=喉賃(のどちん)こ)を直撃し、左の口蓋扁桃腺(こうがいへんとうせん)との隙間にはまった。分かりやすく言えば、枝豆が口の中で噛み砕かれる前に直接、喉の入り口にスポッとはまり込み引っ掛かったのだ。咳嗽反射(がいそうはんしゃ)(*気道壁表層の咳受容体の刺激が迷走神経を介して、延髄(えんずい)の咳中枢に伝達されて起きる反射で、咳をして気道内異物を排出しようとする生体防御反射)で咳が出たが、息を吐いた直後で十分な咳にはならなかった。咳をするために息を吸おうとした。
 ヒュゥウウ~
 喉に引っ掛かった枝豆が気道に吸い込まれて行く。苦しくて咳をしようにも咳ができない。
 ヒュゥゥゥ~~
 息を吸うことも吐くこともできず慌てる。(冷静になるのだ、冷静になるのだ…。)上体を少し前屈し、胃の辺りに両手を当てて、胸に残った空気を押し出すように思い切り押して、最後の咳をした。
 ゴホッ!! ゴホッ!
 喉元まで豆が出てきた。
 エッヘン
 咳払いとともに、豆は口腔内に戻った。
 この間、数秒の出来事だった。
 枝豆のホール・イン・ワン後に起こった危機一髪だった。

 誤嚥・窒息事故防止のため、高齢者と3歳以下の乳幼児は豆を食べるのは止めましょう、は本当だと思った。ふ~、寂しいの…。

 んだ。
(2022年7月)
 
 
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