4.知るべき時

文字数 1,598文字

「ただいまー。」
「おかえり、どこ行ってたの?」
「ちょっと出かけてた。」
「澄元くんと?」
「え、澄元?違うよ。」
「じゃあ誰よ〜他に友達が居るの?それとももしかして・・・女の子?」
「失礼だな・・・女の子だよ。」
「あらやだ!蒼月にも彼女が出来たのね!どんな子?」
「ち、違う違う!すぐご近所の星河さんって高校一緒の子が居て、最近仲良いから遊んでたんだよ!」
「星河さん・・・?」

帰ってきて早々検索をかけてくる母さんに星河さんの名前を出すと顔色が変わった。

「そうだけどなに、母さん。」
「いやね、蒼月あんた、その、星河さんに何か異変とか感じなかった?」
「別に、普通だけど?どうしたの。」
「・・・実はずっとご近所で噂になってるんだけど、星河さんのお宅から夜にたまに怒鳴り声や叫び声とか、物の割れる音とかするから、もしかして・・・ね。」

母さんの言葉に耳を疑わざるを得なかった。
怒鳴り声や物の割れる音・・・叫び声・・・。
いやいやまさか。
つまり、星河さんは虐待を受けてるということ・・・?
家族関連の話はしなかったものの、特に目立つ場所に痣や傷があるわけでも無かった。
異変とかなんとか、まだ仲良くなったばかりにしろ何かおかしいところなんて別段なかった筈。
そして僕はこの前の彼女の言葉を思い出した。

『家の用事!』

ちょっと気を遣ってどもっていたように感じるその言葉だけが少し引っかかった。
彼女が学校を休む日は家の用事だと言い張っていた、それが何か関係あるのだろうか。
考えれば考えるほど落ち着かず、悶々と自問自答を繰り広げる事しか出来なかった。

人の家庭事情なんてそんな簡単に聞いてしまっていいものなのだろうか。
僕は至って平凡な家庭で平凡に暮らしている。
そんなお前なんかに分かるわけない、話したくないって思われるのだろうか。
安易に聞いてしまったらきっと嫌な思いをさせるだろう、辛そうな悲しい顔をさせてしまうかもしれない。
まだ決めつけてるだけで確かな確証もない。
それに真実だとしても他人の家庭事情に僕一人がどうこう出来るものなのか。



脳裏に彼女がさっき見せてくれた笑顔が焼き付いて離れなかった。


ーーー


釈然とせぬまま、悶々とした思いを抱えた僕は次の日を迎えた。



『今日星河さんに会ったらなんて言う?』

『軽々しく尋ねてもいいのか?』

『どんな顔をして会えばいい?』

そんな事を考えながら学校の机に突っ伏した。
何も分かっていない自分や知ったところでどうしようもない事は分かっている。
それでもやっぱり気になってしまって聞きたいと思ってしまう自分や、まとまらない思考にイライラと気持ちが募る。

「おーい志河ーどうした?眠いんか?」
「別に、普通。」
「え、なに志河イライラしてるのー?不機嫌なのー?」

朝からテンションの高い澄元が腹立たしくとも僕の脇腹をつついてくる。

「何でもねぇようるさい。」
「なんだよ志河!生理か〜!イライラは美容の大敵よ!」

澄元はいい奴だが本当にデリカシーがないところがある。
もちろん僕に子宮はないから生理が来るはずもない。
こういう所がモテないんだろ、と言いたいのをグッと抑えて僕は澄元を無視する事にした。

昨日別れてから今日の朝までメールはない。
何かメールの一つでも来ていれば僕の不安は小さかったかもしれない。

もう腹をくくろう。
僕が気にしたところで余計なお世話だ。
お節介野郎と思われてしまうかもしれない。
だから今日星河さんに会ったらいつも通り接しよう。
変に気を使う方が彼女も気を悪くするかもしれないし、まだ決まった話ではないのだ。
きっと昼休みにはこのクラスに遊びに来るだろうから昼休みを待とう。

僕はそのまま昼休みを待った。




その日、彼女は来なかった。


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