01.どうあったって胡散臭い。
文字数 1,946文字
レースのカーテンが揺れる、豪奢な室内。
差し出されたティーカップ。
透明な容器の中には琥珀色の液体。
ふわりとベリーの香りが鼻を掠めた。
目前のテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、その中央には花瓶に白い小さい花が生けてある。
並べられた生クリームたっぷりのケーキ、可愛い形のクッキー。色とりどりの果物、パステルカラーのマカロン。
「……」
(なんだっけ、こういうの、なんて言うんだっけ。……ゆめカワ? それとも、メロい?)
確か、娘が携帯電話で友達と通話しながらそんなことを言っていたな。と思い返す。
使い方や意味が合っているかは正直わからない。次々と生み出される流行りの言葉についていけないあたり、年齢を感じてたまに悲しくもなるが、まあ、私もそれなりに長く生きてきたという証だ。と、無理やり自分を納得させる。
「いかがなさいましたか?」
「……」
丁寧な口調、髪と同系色の深い青色の上着には金色の系で細やかに刺繍がほどこされている。
瞳は赤い。
テーブルを挟んで、私と向かい合わせて座っている男性は、やけにキラキラとして見えた。
(……うん。コスプレかな?)
まあ、いまどき、誰がどういう格好をしようが自由だと思うし、なによりその異国風の衣装は、くっきりとした目鼻立ちの男性によく似合っていた。
しかし、どうしてこの人が目の前にいるのかが分からない。
とにかく、気づいたら私はこの部屋にいて、目の前には無駄にキラキラとしたこの男性がいたのだ。
自分が気づかないうちに、ここに連れて来られた可能性はまずないだろう。そんな手間をかけてまで、この場に私を連れて来るほどのメリットが目の前の男性側にあるとは思えない。
では、私自身が気がつかないうちにそういう会場とか、異国の貴族っぽい格好がコンセプトのカフェにでも紛れ込んだのだろうか? そうなると、ここにどうやって来たかの記憶がない分、目の前の男性より色々とヤバいのは私の方だ。
さらに、そのヤバさを際立たせているのが自分の今の格好だった。
朝、洗濯物を干し終わり、少しだけ休もうとリビングのソファーで横になっていたから、Tシャツにジャージというめちゃくちゃくちゃラフな服装だ。
それのなにが問題かって、この可愛らしい部屋と食べ物、そして目の前のキラキライケメン男子。それらと自分とのギャップが激しすぎる。
(いつもこの格好なわけではないし、……たまたま。そう、今日はたまたま、たまにはそれでもいいかと思っただけだから!)
と、そう頭の中でよくわからない言い訳をしたくなるほどにはミスマッチなわけだ。
ちなみに、ソファーに寝転んでからあとの記憶はない。
夢かもしれないと頬をつねってみようかと思ったけど、夢の中で夢かどうかを疑っている時点で夢ではない気がするのでやめておいた。変わりに目の前の男性にに恐る恐る声をかける。
「あのー、すみません。……キャンセルできますか?」
「できませんよ」
ダメ元で言ってみたけど、キラっと効果音がつきそうなほど爽やかに微笑まれて返されてしまった。
(まあ、そうだよね)
すでにこれだけの食べ物が机の上に所狭しと並んでいる。常識的に考えると、キャンセルしたいと言っても難しいのだろう。
私としては、目の前の食べ物を注文した覚えもなければ、自分の意思でこのお店だか会場だかに入った記憶すらないので、そうしてもらえたらすごくありがたかったのだけど……。
さっきこっそりジャージのポケットを探ってみたけど、携帯はおろか、もちろんお財布なんて持っていない。目の前に並べられてるお菓子類は一体いくらかかるのか? 特にこの部屋が個室なあたり、お支払いの総額がいくらになるのか考えるのが怖すぎる。
「すみません、今手持ちがなくて、……一度家に帰らないと」
言いながら、これだって通用するのかと自分でも疑問に思う。
身分証明になるようなものを持っていれば、信じてもらえるのかもしれないけど、そんなものも当然持ち合わせていない。
これはいよいよ困ったと悩んでいたら、男性は何かに気づいたように少し驚いた表情を浮かべたあと、私に向かって声をかけてきた。
「おや。なにか勘違いをされていらっしゃいますか?」
「は?……勘違い、とは??」
「ここにあるものは、ご自由に食べていただいたいて構わないのですよ」
「え? それって、無料ってことですか?」
私の言葉に男性は頷いたが、そんなうまい話はどこにも転がっていない。万が一転がっていたとするなら何かしらの裏がある時だけだと思う。
それはないでしょ。と首を横に振った私を見て、男性は、至極真面目な顔をしてこう言った。
「当然です。異世界からおいでになったあなた から、金銭を巻き上げるようなことはいたしませんよ」
差し出されたティーカップ。
透明な容器の中には琥珀色の液体。
ふわりとベリーの香りが鼻を掠めた。
目前のテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、その中央には花瓶に白い小さい花が生けてある。
並べられた生クリームたっぷりのケーキ、可愛い形のクッキー。色とりどりの果物、パステルカラーのマカロン。
「……」
(なんだっけ、こういうの、なんて言うんだっけ。……ゆめカワ? それとも、メロい?)
確か、娘が携帯電話で友達と通話しながらそんなことを言っていたな。と思い返す。
使い方や意味が合っているかは正直わからない。次々と生み出される流行りの言葉についていけないあたり、年齢を感じてたまに悲しくもなるが、まあ、私もそれなりに長く生きてきたという証だ。と、無理やり自分を納得させる。
「いかがなさいましたか?」
「……」
丁寧な口調、髪と同系色の深い青色の上着には金色の系で細やかに刺繍がほどこされている。
瞳は赤い。
テーブルを挟んで、私と向かい合わせて座っている男性は、やけにキラキラとして見えた。
(……うん。コスプレかな?)
まあ、いまどき、誰がどういう格好をしようが自由だと思うし、なによりその異国風の衣装は、くっきりとした目鼻立ちの男性によく似合っていた。
しかし、どうしてこの人が目の前にいるのかが分からない。
とにかく、気づいたら私はこの部屋にいて、目の前には無駄にキラキラとしたこの男性がいたのだ。
自分が気づかないうちに、ここに連れて来られた可能性はまずないだろう。そんな手間をかけてまで、この場に私を連れて来るほどのメリットが目の前の男性側にあるとは思えない。
では、私自身が気がつかないうちにそういう会場とか、異国の貴族っぽい格好がコンセプトのカフェにでも紛れ込んだのだろうか? そうなると、ここにどうやって来たかの記憶がない分、目の前の男性より色々とヤバいのは私の方だ。
さらに、そのヤバさを際立たせているのが自分の今の格好だった。
朝、洗濯物を干し終わり、少しだけ休もうとリビングのソファーで横になっていたから、Tシャツにジャージというめちゃくちゃくちゃラフな服装だ。
それのなにが問題かって、この可愛らしい部屋と食べ物、そして目の前のキラキライケメン男子。それらと自分とのギャップが激しすぎる。
(いつもこの格好なわけではないし、……たまたま。そう、今日はたまたま、たまにはそれでもいいかと思っただけだから!)
と、そう頭の中でよくわからない言い訳をしたくなるほどにはミスマッチなわけだ。
ちなみに、ソファーに寝転んでからあとの記憶はない。
夢かもしれないと頬をつねってみようかと思ったけど、夢の中で夢かどうかを疑っている時点で夢ではない気がするのでやめておいた。変わりに目の前の男性にに恐る恐る声をかける。
「あのー、すみません。……キャンセルできますか?」
「できませんよ」
ダメ元で言ってみたけど、キラっと効果音がつきそうなほど爽やかに微笑まれて返されてしまった。
(まあ、そうだよね)
すでにこれだけの食べ物が机の上に所狭しと並んでいる。常識的に考えると、キャンセルしたいと言っても難しいのだろう。
私としては、目の前の食べ物を注文した覚えもなければ、自分の意思でこのお店だか会場だかに入った記憶すらないので、そうしてもらえたらすごくありがたかったのだけど……。
さっきこっそりジャージのポケットを探ってみたけど、携帯はおろか、もちろんお財布なんて持っていない。目の前に並べられてるお菓子類は一体いくらかかるのか? 特にこの部屋が個室なあたり、お支払いの総額がいくらになるのか考えるのが怖すぎる。
「すみません、今手持ちがなくて、……一度家に帰らないと」
言いながら、これだって通用するのかと自分でも疑問に思う。
身分証明になるようなものを持っていれば、信じてもらえるのかもしれないけど、そんなものも当然持ち合わせていない。
これはいよいよ困ったと悩んでいたら、男性は何かに気づいたように少し驚いた表情を浮かべたあと、私に向かって声をかけてきた。
「おや。なにか勘違いをされていらっしゃいますか?」
「は?……勘違い、とは??」
「ここにあるものは、ご自由に食べていただいたいて構わないのですよ」
「え? それって、無料ってことですか?」
私の言葉に男性は頷いたが、そんなうまい話はどこにも転がっていない。万が一転がっていたとするなら何かしらの裏がある時だけだと思う。
それはないでしょ。と首を横に振った私を見て、男性は、至極真面目な顔をしてこう言った。
「当然です。異世界からおいでになった