プロット

文字数 3,039文字

起:小学4年生の今堀(いまほり)裕介(ゆうすけ)はその朝、曇った気持ちで学校に向かっていた。昨日、友達の坂本(きよし)に誘われて、山下(みつる)、松尾賢太(けんた)と裕介の4人で、クラスの本木(もとき)(おさむ)の上靴の片方を隠したからだ。

なぜ修にそんなことをするかわからなかった。ほとんど関わりのない修。清は「なんかムカつく」と言っていた。裕介は誘いを断ることも、やめようと言って止めることもできなかった。裕介は作り笑顔でその場に一緒にいた。

トボトボ歩いていると足元に黄緑色の実が落ちていた。うめばあちゃんの梅の実だ。

裕介が拾い上げると、道の掃除をしていたうめばあちゃんが「おはよう」と声をかけてくれた。
裕介の顔を見て「どうしたんだい? 冴えない顔をして」とからかうように言った。

うめばあちゃんはみんなからうめばあちゃんと呼ばれている。梅の木の家のおばあちゃんだからうめばあちゃん。本当の名前は知らない。家の前が通学路で、通る子どもたちにいつも声をかけてくれる。

元気がない裕介に、その拾った梅の実を持って行けと言う。お守りになるからと。

裕介は言われるままに梅の実をポケットに入れた。

裕介の願いは「バレませんように」。修の上靴を隠したことがバレて怒られるのが嫌だった。
教室に着くと修の姿が見えた。足元を見ると学校の緑色のスリッパを履いている。それ以外はいつもと変わらず、笑いながら仲のいい友達と喋っていた。

担任の先生が教室に来た。先生はみんなを席に座らせ、話を始めた。

「本木さんの上靴が片方なくなりました。なにか知っている人はいませんか?」

教室はシーンと静まり返った。

「どこかで見つけたら教えてください。みんなの前で言いにくいことがあったら、後で先生のところまで話しに来てください」

誰かが僕たちがやっていたところを見ていて先生に言いに行くんじゃないか……、僕たちがやったってバレるんじゃないか……、裕介はドキドキしながら過ごした。

承:放課後、学校からの帰り道にうめばあちゃんがいた。
「お守り、効いたかい?」
そう言えば、結局僕たちがやったってバレてないみたい……。梅の実のお守りのおかげかな……。
そう思いながら
「うん」
と裕介は答えた。
「その割にパッとしない顔だね」
今日はバレなかったけど明日はバレるかもしれない。いつまでこんな気持ちでいるんだろうと裕介は思った。

「うめばあちゃんの梅干しでも食べるかい? 元気が出るよ」
と、うめばあちゃんが言った。

「まあ、今時人様の子どもに勝手に食べ物を渡したりしたら不審者扱いされるかもしれないから、あんたのお母さんに聞いといで。うめばあちゃんの梅干し食べてもいいかって。元気が出るのは確かだよ。私はいつも食べてるから80歳になってもこんなに元気だよ」

本当に元気そうな顔でうめばあちゃんは笑った。

家に帰っても、ふとした時に修の上靴のことを思い出して気持ちが沈んだ。
裕介は母親に、うめばあちゃんの梅干しをもらってもいいか聞いてみた。

母は「梅干しって作るのにすごく手間がかかるんだよ。買ったら高いし! いただくからにはなにかお手伝いしてお役に立ちなさいね」と言った。

土曜日、裕介はうめばあちゃんの家に行ってみた。知らないおじさんが脚立に乗って梅の木の枝を切っていた。

その様子を眺めていると、うめばあちゃんがほうきを持って現れた。
「あら、こんにちは」
「あの人誰?」
「うめばあちゃんの息子だよ。子どもの頃はあんたと同じ小学校に通っていたんだ」
うめばあちゃんの息子は脚立の上から裕介に向かってニコッと微笑んだ。

「梅の実を収穫して、伸びた枝を切ってるんだ。さすがに80歳のばあさんが脚立に登るのは危ないから、手伝いに来てもらったよ」

裕介は母とのやり取りをうめばあちゃんに伝えた。
そしてうめばあちゃんの手伝いをすることになった。

切った枝を集めて紐で縛る。落ち葉をほうきで掃いて集める。
裕介はおじさんに教えてもらいながら手伝った。

外の作業が終わる頃、うめばあちゃんが「お腹空いただろ」と家の中から声をかけた。

おじさんに促されて家の中に入ると、美味しそうなおにぎりがテーブルの上に置いてあった。

「梅おにぎりだよ」
とうめばあちゃんは言った。
うめばあちゃんのおにぎりはとても美味しかった。

台所にはバケツやおけが並んでいて、その中に収穫した梅の実がたくさん入っていた。

帰り際、うめばあちゃんが梅干しをジップ袋に入れてくれた。

転:月曜日の朝、裕介はご飯の上にうめばあちゃんの梅干しを乗せて食べた。酸っぱくてご飯がより一層甘く感じた。

学校に着くと知らない女の子が裕介の隣の席に座っていた。誰だろうと思って清に聞いてみた。清は「なに言ってんの、梅子だろ」と言った。
梅子? そんな子いたっけ……。
裕介は不思議に思ったが、裕介以外の誰も不思議に思っている様子はなかった。

梅子は明るくてやさしい女の子だった。最初は不思議に思っていた裕介もすぐに梅子と仲良くなった。

学校が終わり、梅子は裕介と同じ方向らしく一緒に帰った。梅子はうめばあちゃんの家に入って行った。

うめばあちゃんの孫かな?
裕介はそう思った。

次の日、裕介は梅子に聞いてみた。
「梅子ってうめばあちゃんの孫なの?」
梅子は不思議そうな顔をして
「うめばあちゃん?」
と聞き返した。

転:次の日もうめばあちゃんにもらった梅干しを朝ご飯に食べた。

学校に着くと、教室がザワザワしている。梅子のノートが破られてゴミ箱に捨てられていたらしい。
梅子はビリビリに破られたノートをテープで貼って直している。

先生が教室に来て、この件についてなにか知っている人はいないかと聞いた。

教室は静まり返るだけで誰もなにも言わなかった。

裕介はすっかり忘れていた修の上靴のことを思い出した。

放課後、忘れ物を取りに来た裕介は偶然、数人の女子が話すのを聞く。

「梅子ザマアミロだよね」
「ちょっとかわいいからって調子に乗ってるからだよ」

廊下でこの話を聞いていた裕介は、勇気を出して教室に入った。

自分の机から忘れ物の教科書を取り出すとなにも言わずに教室を出ようとした。しかし心を決めて立ち止まり、女子たちに言った。

「梅子の気持ちも考えろよ」

女子たちは黙っていた。

学校を後にして歩きながら、裕介は思った。

自分も同じなのに。
僕はいつも自分のことばかりで修の気持ちを考えたことなんてなかったくせに。
あんなに偉そうに……。

翌朝、梅干しをご飯の上に乗せて、いただきますと言った。

先生が教室に来てみんなが席に着いた時、裕介が手を上げた。

「今堀さん、なんですか?」
先生は言った。

裕介は立ち上がり
「話したいことがあります」
と言った。

昨日の放課後、教室にいた女子たちがうつむいた。

「僕たちは……」

そう話し始めた時、うめばあちゃんの梅干しの酸っぱい味が口いっぱいに広がった。

そして隣の席を見ると梅子はいなかった。

立ちすくむ裕介に先生が声をかけた。

「今堀さん、どうしたのですか? なにか話があるのですか?」

裕介の斜め前に座る修は真新しい上靴を履いている。

裕介は顔を上げて話し始めた。

「僕たちは修の上靴を隠しました。修、ごめん」

結:学校帰りにうめばあちゃんがいた。
「梅干し食べたかい?」
「うん!」
「美味しかっただろ〜」
「酸っぱかった!」
裕介の顔は晴れやかだった。

「うめばあちゃんってもしかして梅子っていう名前なの?」
「そうだよ」
「もしかして昔はけっこうかわいかった?」
裕介がそう聞くと
「なにを言うんだい! 今もかわいいだろっ」
と、うめばあちゃんは元気いっぱいに笑った。

 
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