綺麗な宝石

文字数 859文字

「やっほー」
 昨日の昼に見た時とは違う大人な艶めかしさのある声がする。いつもより暗くて魅力的な声。ダウナーな雰囲気。
 今日の梅雨ちゃんはショートパンツにパーカーを着ている。それだけで、今までの服装とかけ離れていてびっくりしたが、極めつけは頭に載っているキャップだ。
 ちょっと悪そうな梅雨ちゃんも、凄く可愛い。
「ごめん、親に止められて、ちょっと遅れちゃった」
「全然良いよ」
 直前まで梅雨ちゃんの顔を照らしていた画面がポケットにしまわれ、キャップから流れる髪が揺れる。
「どこ行くの?」
「散歩」
 二人で並んで夜の街を歩いて居ると、まるで付き合っているかのようで、罪悪感を覚えた。
 確かに一歩一歩を踏みしめる梅雨ちゃんの細い脚を見ながら、彼女を花に喩えるとしたらどの花が一番似合うかについて考えた。
 朝顔かな? 紫陽花? いや、向日葵かも。
 ポンポンと頭の中で重ねてみても、どの花もすごく似合っていて少し妬ましかった。

「着いたよ」
「こんな所に公園なんてあったんだ」
「あんまりみんな知らないけどね、ここ、高台だから夜景が綺麗に見えるの」
 そう言って狭い公園の奥へ連れて行かれる。
 フェンスの向こうに広がるのは、眩しい程の夜景だった。
「綺麗……」
 考える前に言葉が口を衝いて出ていった。
 見とれて居ると、右から透き通るような声がする。
「ねえ、彩月ちゃん。気持ち悪いこと言って良いかな。たぶん聞いたら引くと思う」
「……引かないよ。多分。私も相当なもの隠してるから」
「そっか……じゃあ、お互い様だね」
「言ってみて」
 彼女の口から溢れた言葉は、想定外の物だった。
「彩月ちゃん。私たちもう友達辞めよう」
「えっ? なんで……」
「――嫌いになった。私、彩月ちゃんが大嫌いになったから、もう遊ぶの辞めよう。これで、今日で最後」
「わ……私は、わた、わたしが、何か悪いことしたの?」
「違うけど、もう、大っ嫌い」
 梅雨ちゃんは泣いていて、でも何かが吹っ切れたように笑っていた。
 彼女の涙には、夜景が反射して、まるで宝石のように輝きを放っていた。
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