第1話

文字数 1,122文字

 夏はハイボールが美味しい。
 私はウイスキー「角」のハイボールは逸品だと思う。
 居酒屋のカウンターに座る。ジョッキグラス8分目まで氷を入れる。レモンスライスを一切れ氷に載せる。ウイスキーを 1/3 まで注ぐ。
 ドクドクドクドク
 氷にひびが入る。
 ペキッ!
 炭酸水を注ぐ。
 プシュッ! シュゎシュゎシュゎシュゎ~~~ぁ
 マドラーで約2回転かき回す。ひと口飲む。プハァ~~、美味(うま)い。
 以後、この繰り返し。
 「角」瓶は私の学生時代からあった。当時も今もお手頃な値段で、味は裏切られたことはない。瓶が透明で、酒の残量が明瞭だ。
 私はこの瓶が透明なことが気に入っている。という訳は、ジョッキに注ぎ足していると自分は何杯飲んだか正確に分からなくなる。その時、透明な瓶を見れば、減ったウイスキーの量を見て飲んだ量を確認できるからだ。そこまでして飲まなくてもいいのでは、という意見もあろうが、それが私のこだわりなのだ。
 日本酒は水で割ったりはしないので、味は一定である。それに対して私はウイスキーのハイボールには味の濃淡を感じていた。グラスの部位で炭酸水の味が強かったり、ウイスキーの味が強くなったり、レモンの香りがしたりした。もっとよくマドラーでかき混ぜればいいのだが、かき混ぜ過ぎると炭酸が飛んでしまう。しかもせっかちな私の飲み方では、これは仕方がないことだと思っていた。
 そんなある日のカウンターでいつものようにハイボールを作り、さあ、飲むぞ! と、その時、携帯電話が鳴った。病院からだった。
 席を外して4~5分後、カウンター席に戻った。ハイボールのジョッキは冷えて表面に汗をかいていた。ひと口、口に含んだ。
 う、美味(うま)い!!
 炭酸水のツンとくる刺激はなくなっていた。炭酸は微細な泡となっていた。ほんのりとレモンの香りがして、後味に単純明快で(なめ)らかな爽快感があった。炭酸水、ウイスキー、レモン片、氷、この4つの要素が見事に混ざって馴染み、ひとつの飲み物になっていた。
 私は待てない。これが原因の全てだった。ハイボールを作ったら、味が馴染むまで少し時間をかける。しかもじ~ッと待つ。
 酒道の奥は深い。

 さて、写真は2016年2月3日、庄内のとあるバーのカウンターで撮影したウイスキーである。

 ウイスキー1に常温水1を混ぜ合わせて飲むトワイスアップ twice up という飲み方を教わった。この飲み方は、ウイスキーの香りが最も際立つ飲み方であるとされている。作ったらしばらくウイスキーと水を馴染ませる。
 ゆっくりとグラスを傾けウイスキーの香りを楽しむ。
 黒の色調で、暗く落ち着いたバーの大人の雰囲気が、そうさせるのだと思った。

 んだんだ。
(2022年8月)
 
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