サウダージ

文字数 467文字

日々の疲労に、飲み込まれていたとき。
私は、とある駅前によく赴いた。
何も感じられなかった。虚無を抱え込んでいた。
どんな景色も、私の心を震わすことはなかった。
それは真綿で、首を締められるような絶望だった。
私の人生からは、光が失われていた。それはもう、私のもとに永久に射し込んではこないだろう……
しかしその駅前の、少し高台から望む景色は、私の胸にどこか懐かしさを呼び起こした。
何の変哲もない光景だ。コンビニにマンション、南北へと続く高架線……
私はその懐かしさを感じるために、その駅前にしばしば訪れた。仕事帰りや休日、原付や電車で。
私は缶コーヒーを飲みながら、それを眺めた。立ち尽くしたまま。
その懐かしさの正体を捉えられずにいた。あるいは、それを捉えようとする発想すら湧かなかったかもしれない。
その景色が懐かしければ、それでよかった。

今なら、その理由がわかる。
その景色の彼方に、あなたがいたからだ。
コンビニやマンション、高架線の向こうに。
あなたが私を、待ってくれていたから。
まだ、見知らぬあなたが——
私たちが出逢うのは、まだ随分、先のことだ。
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