カクヨム短編フェスお題「スタート」:きりちゃん

文字数 1,880文字

「いーれて」



あ、きりちゃんだ。



僕はちょっとだけ嫌だな、と思った。

きりちゃんは、僕らが遊んでいるとどこからかやって来て、一緒に遊ぼうと言ってくる女の子。学校では会わないけど、この公園ではよく会うんだ。



「いいよー」「一緒に遊ぼー!」

他の子たちにそう言われて、きりちゃんは嬉しそうに笑う。お肌が白いんだけど、唇は真っ赤。不思議と僕も、嫌だなとは思っていても、きりちゃんを除け者にしたいとは思わなかった。



「じゃあ、何してあそぶ?」

「鬼ごっこ!」「かくれんぼ!」

みんなが口々にいうので、なかなか決まらない。



「はないちもんめ、しようよ」

きりちゃんがそう言うと、みんながきりちゃんの方を見た。



「でも、5人と6人になっちゃうよ?」

アミちゃんが心配そうに言った。



「5人と、5人だよ」

きりちゃんがそう言った。たしかに、そうだった。







5人と5人、ちょうどよく2チームに分かれた。

僕らのチームは、僕、きりちゃん、エミちゃん、けんと君、じゅん君。

あっちのチームは、たろう君、ナナちゃん、カズ君、ヤマちゃん、ちさちゃん。



『はないちもんめ』を唄いながら前にすすんだり、下がったりする。



「か~ってうれしい、はないちもんめ」

「となりのおばさんちょっときておくれ」

「オニがこわくていかれない」

「あの子がほしい」

「この子がほしい」

「そうだんしましょ、そうしましょ」



みんなでまるく円をつくって、小声で相談をする。



「誰がいい?」

「ぼく、ナナちゃんがいいな。ジャンケン、つよいし!」

「ヤマちゃんにしようよ!」

「カズ君は?」




「わたし、たろう君がいいな。」



きりちゃんが言った。



「いいね、たろう君にしよー!」「たろう君にきまりね!」



僕たちはみんな同じ意見で、すぐに決まった。




「たろう君がほーしい!」

「エミちゃんがほーしい!」



たろう君とエミちゃんがじゃんけんする。僕らのチームの、エミちゃんが勝った。



「やった!」「たろう君はこっち!」

エミちゃんが勝ったので、僕ら側が1人増える。これで6対4だ。





「か~ってうれしい、はないちもんめ」

「おかまかぶってちょいときいておくれ」

「おかまそこぬけいかれない」

「あの子がほしい」

「この子がほしい」

「そうだんしましょ、そうしましょ」



まるく円をつくって、相談をする。



「今度は誰にする?」

「ちさちゃんを仲間にしよう!」

「ナナちゃんはいいの?」

「やっぱり、カズ君がいいなー。」



「わたし、ナナちゃんがいいな。」



きりちゃんが言った。



「ナナちゃん!」「ナナちゃんつよいもんね!」



僕たちはみんな同じ意見で、すぐに決まった。




「ナナちゃんがほーしい!」

「けんと君がほーしい!」



ナナちゃんとけんと君がじゃんけんする。あっちのチームの、ナナちゃんが勝った。



「あ~負けちゃった!」「ナナちゃんはやっぱり強いなあ!」



けんと君が、あちら側に連れていかれる。

これで、僕らのチームが5人、あっちのチームは4人。できれば負けたくないなあ、と僕は思う。






「まけてくやしい、はないちもんめ」

「ふとんかぶってちょいときいておくれ」

「ふとんびりびりいかれない」

「あの子がほしい」

「この子がほしい」

「そうだんしましょ、そうしましょ」



円をつくる。さっきじゃんけんに負けてしまったので、みんなちょっと悔しそうだ。



「……誰にする?」

「ナナちゃんは強いから、あとにしよう」

「ちさちゃんにする?」

「それがいいね」



「わたし、ちさちゃんがいいな。」



きりちゃんが言った。



「そうだね!」「じゃあちさちゃんね!」



僕たちはすごく気が合う。すぐに決まった。




「はじめ君がほーしい!」

「ちさちゃんがほーしい!」



はじめ君は、僕だ。

僕とちさちゃんがじゃんけんする。あっちのチームの、ちさちゃんが勝った。



「はじめ君が連れてかれちゃった~!」「くやしーい!」



僕はちさちゃんに手を引っ張られて、あっちのチームに連れていかれる。悔しいけど、次は負けないぞ。



ブツッ。




───……。



──……。



……。










「そろそろ終わりにしよっか。」



声をあげたのは、きりちゃんだった。



子供達はちょうど4人と4人のチームに分かれていて、引き分けだった。



「けっきょく、スタートしたときの人数と変わんないね」「ひきわけだね~」

「でも、楽しかったね」




「じゃあ、またあしたね」

「うん、きりちゃん。おやすみ~!」



子供達は手を振りながら、公園から離れていく。

公園にはもう誰もいないけれど、ブランコが2つ、きいきいと前後に揺れて動いている。滑り台のローラーは、カラカラと上から順に回っていく。




きりちゃんは公園の真ん中に立っている。首を真反対にまわして、グルリとこちらを向いた。



「かってうれしい、はないちもんめ」
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