第15話 諸星奈々救出作戦 悔しいけど好き
文字数 3,006文字
量子は、スターダスト・リーグの第二番隊・戦略オペレーターという立場で、総合作戦を担っていた。量子の才能に、驚くほかはない。
「パンも戦場の作戦も、やってみたら同じコトだった。クリエイティブな作業なのよね」
と、量子は誉に言うが、あまりに飛躍が過ぎて誉の思考は追い付いていない。
どうやらパン工場内で、いろいろなマシンを操作し、地球パンの研究開発を行っていたことが、こんな宇宙戦争のシーンで役立っているらしいのだが。
「こんなことになったけど、レジスタンスでも地玉の皆と同じ目標に向かって、戦えることがうれしい」
「俺もそうさ」
誉は一オペレーターの立場で答えた。誉にもエンジニアの才能があったからだが、綾瀬量子にはとても及ばない。量子があれこれ教えてくれて、誉は右腕的な立場に収まっていた。
「七つの宙(そら)を航海(わた)るアイドル・諸星奈々を、助けに行くぞ!!」
有翼人たちの間でも、奈々は有名だったらしい。奈々の3DHDがモニターに映し出され、七色に輝く、手足の長い奈々のダンスが画面いっぱいに広がった。奈々のダンスは、彼らの間でも神がかりと言われている。
「オォーッ」
「隊長、俺も行くぜ」
誉は志願した。
「奈々ちゃんを援けるのは第三番隊、特攻隊・サンキュー石井隊だよ。誉はここにいて」
「そうか」
量子隊の艦隊は、純黒星雲の正面に対峙し、陽動作戦を行う重要な役割だった。
レッド・フェニックス率いる第一番隊の艦隊は「種火」を携え、ベンタブラックホールの経路となっている星へ急襲をかける。種火を使い、戦艦の火力は強化されていた。
数十時間が経過し、レッド・フェニックス隊は経路の星(腎臓)への攻略に成功しつつあった。それは、磁力の連鎖を断つことである。
ベンタブラックホール(BBH)の弱体化に伴い、純黒星雲に支配された星々をBBHの重力圏から解放し、レジスタンスは五割の星域の回復に成功した。
紫煌要塞で見守る人々の、歓声が上がった。
再び観えてきた星の、奈々の救出作戦が開始された。実行するのはサンキュー石井隊だ。
量子と誉たちは陽動を続け、その最中、サンキュー石井隊の艦が諸星奈々の捕まっている星へと向かった。
「報告します! サンキュー石井隊、全滅しました!」
量子隊の艦に、緊迫した報が入る。
「――え?」
誉と量子は唖然とした。
「石井隊が急襲した最中、星に伏兵が現れました。どうやら敵の待ち伏せを喰らったようです。艦は全滅です!」
誉は頭がクラクラしてきた。あいつもただの人間だったのだ。魔法使いでもなんでもない。敵は星をわざとがら空きに見せたが、罠だった。予想を超えた大規模の伏兵艦隊の集中砲火を受けて、石井艦は撃ち落とされた。こっちの陽動もバレただろう。もう、奈々を救出する手立てはないのかもしれない。
「作戦を立て直そう。ここまで来たんじゃない」
量子は誉の肩に手を置いた。意外に冷静だ。
「……」
司令室に足音が響く。
「どうも、ブラッド・ピットです」
そいつはサンキュー石井だった。
「ハ?! な、何でオマエここにいるの?」
誉はホッとするより、幽霊でも見つめるように問いただした。
「イヤ、ちょっとベンタブラックホールを一度観察しとこうと思ってよ」
「お前の艦、全滅したんじゃなかったのかッ!!」
「全滅って?」
誉は血相を変えて、モニターのデータを指し示す。
「あぁーアレ? 完全無人機だよ」
「…………」
「あぁー、あったあった! 探しモンしてたんだよ。こんなトコに置き忘れて。俺様専用のタンブラー! これがねーとのどが渇いて戦どころじゃねぇ。じゃあナ!!」
石井は、指令室の隅っこに置かれた銀色のタンブラーをヒョイと取り上げると、さっそうと去っていった。
サンキュー石井は生きていた。
相変わらずのさぼり・冷やかし。あいつはレジスタンス全軍を、誉と量子をいら立たせる。しかしあのまま石井が救出に向かっていたら、敵の罠にハマって、死んでいたはずだ。
「あいつ、わざとやってるのか? それとも天然?」
誉には、サンキュー石井の真意が分からなかった。天賦の才か。
「お伝えします! 石井隊、無事、諸星奈々の救出に成功しました!」
あっけに取られている間に、今度は石井が奈々を救出したという報が入った。無人の石井艦を撃ち落とした敵伏兵が油断した隙に、石井はまんまと奈々を救出してしまったらしい。自分たちも石井に救われた訳だが、トリッキーなアイツでなきゃ、敵の裏の裏をかき、奈々を救出することは到底できなかっただろう。
「無事……救ったらしいな」
石井の船が、量子艦に戻ってきた。
「奈々!」
誉と奈々はようやく再会した。
奈々は、別れた時のギャルの格好のままだった。やつれた様子はない。
「あたし――助かったんだね」
奈々は眩しそうに顔をしかめた。ずっと闇の中にいたから、目が慣れないのだろう。
「そうさ。これでもうひと安心だ」
奈々によると、純黒星雲の中は、闇また闇で何もすることもなく、ひたすら眠っていたという。そのお陰でか、おなかがすくこともなかったらしい。夢の世界の方がフルカラーで、気がまぎれる。そんな中でも、地玉の林業部で採取したマグネット・クリスタルをずっと持っていたらしい。それは、純黒の中で奈々に、光を感じさせる唯一のものだった。光と熱を感じながら、奈々はそれを抱いていた。
「これで、何も気兼ねなくハンサモと戦えるな!」
サンキュー石井はニヤついて、誉の肩をポンッと叩いた。
いよいよ最終決戦!
世界の謎は解き明かされ、光と闇の、宇宙をかけた天下分け目の戦いが始まろうとしていた!!
「おみまいしてやろうぜい!! ハッハ、ハッハッハッハッハッハ!」
サンキュー石井は、誰よりも張り切っていた。
「大獏正一みたいに笑うわネ!」
そこにまた奈々はイラついている。
「一緒に戦おう」
誉は、奈々に言った。
「うん――でももうチーム編成決まってるみたい。あたし、サンキュー石井隊」
「そうなのか? 大丈夫かあいつで」
「いい加減でテキトーで、大嫌いだ!! でも、悔しいけど好きなんだ。それが、自分が男になる足かせになってるのが悔しい、悔しい……」
「あんな奴の一体どこが?」
石井は奈々の元カレだ。でも、ずっと嫌っていたはずだった。
「……」
「奈々」
「全部」
ガーン。誉は鉄槌を喰らった気分だった。
全軍、戦いに向かう最終決戦の最中、奈々は打ち明けた。
「大っ嫌いって言いながら、ホントは好きなの。そんな自分が、イヤ……」
奈々は告白を続ける。
「九割イイカゲンなのに、要領のいいとこだけいつもかっさらう。悔しいけど、そこが好き……」
奈々が石井を嫌いなのに、憧れているのだと誉は気づいていた。あの、サンキューの軽さに。女心は複雑? えっ女?!
奈々は誉とは、自分が男であることを打ち明けた、男の友情だと信じているらしい。そんな奈々に、誉は小麦色の肌を持つ女性の美しさにあこがれていたのだが。
石井と奈々は、宇宙艇で量子艦を去った。今度は、奈々は石井に身体を触られることを嫌がらなかった。正直言ってヤケる。
誉はショックを引きずったまま、二人を見送った。
「イイんじゃない? チーム編成が違うのはしょうがないヨ……、あれでよかったのよ」
と量子は誉を慰めた。
「そうだな……元サヤに戻ったって訳か」
今は量子が同チームだ。争ってる場合じゃない。
「パンも戦場の作戦も、やってみたら同じコトだった。クリエイティブな作業なのよね」
と、量子は誉に言うが、あまりに飛躍が過ぎて誉の思考は追い付いていない。
どうやらパン工場内で、いろいろなマシンを操作し、地球パンの研究開発を行っていたことが、こんな宇宙戦争のシーンで役立っているらしいのだが。
「こんなことになったけど、レジスタンスでも地玉の皆と同じ目標に向かって、戦えることがうれしい」
「俺もそうさ」
誉は一オペレーターの立場で答えた。誉にもエンジニアの才能があったからだが、綾瀬量子にはとても及ばない。量子があれこれ教えてくれて、誉は右腕的な立場に収まっていた。
「七つの宙(そら)を航海(わた)るアイドル・諸星奈々を、助けに行くぞ!!」
有翼人たちの間でも、奈々は有名だったらしい。奈々の3DHDがモニターに映し出され、七色に輝く、手足の長い奈々のダンスが画面いっぱいに広がった。奈々のダンスは、彼らの間でも神がかりと言われている。
「オォーッ」
「隊長、俺も行くぜ」
誉は志願した。
「奈々ちゃんを援けるのは第三番隊、特攻隊・サンキュー石井隊だよ。誉はここにいて」
「そうか」
量子隊の艦隊は、純黒星雲の正面に対峙し、陽動作戦を行う重要な役割だった。
レッド・フェニックス率いる第一番隊の艦隊は「種火」を携え、ベンタブラックホールの経路となっている星へ急襲をかける。種火を使い、戦艦の火力は強化されていた。
数十時間が経過し、レッド・フェニックス隊は経路の星(腎臓)への攻略に成功しつつあった。それは、磁力の連鎖を断つことである。
ベンタブラックホール(BBH)の弱体化に伴い、純黒星雲に支配された星々をBBHの重力圏から解放し、レジスタンスは五割の星域の回復に成功した。
紫煌要塞で見守る人々の、歓声が上がった。
再び観えてきた星の、奈々の救出作戦が開始された。実行するのはサンキュー石井隊だ。
量子と誉たちは陽動を続け、その最中、サンキュー石井隊の艦が諸星奈々の捕まっている星へと向かった。
「報告します! サンキュー石井隊、全滅しました!」
量子隊の艦に、緊迫した報が入る。
「――え?」
誉と量子は唖然とした。
「石井隊が急襲した最中、星に伏兵が現れました。どうやら敵の待ち伏せを喰らったようです。艦は全滅です!」
誉は頭がクラクラしてきた。あいつもただの人間だったのだ。魔法使いでもなんでもない。敵は星をわざとがら空きに見せたが、罠だった。予想を超えた大規模の伏兵艦隊の集中砲火を受けて、石井艦は撃ち落とされた。こっちの陽動もバレただろう。もう、奈々を救出する手立てはないのかもしれない。
「作戦を立て直そう。ここまで来たんじゃない」
量子は誉の肩に手を置いた。意外に冷静だ。
「……」
司令室に足音が響く。
「どうも、ブラッド・ピットです」
そいつはサンキュー石井だった。
「ハ?! な、何でオマエここにいるの?」
誉はホッとするより、幽霊でも見つめるように問いただした。
「イヤ、ちょっとベンタブラックホールを一度観察しとこうと思ってよ」
「お前の艦、全滅したんじゃなかったのかッ!!」
「全滅って?」
誉は血相を変えて、モニターのデータを指し示す。
「あぁーアレ? 完全無人機だよ」
「…………」
「あぁー、あったあった! 探しモンしてたんだよ。こんなトコに置き忘れて。俺様専用のタンブラー! これがねーとのどが渇いて戦どころじゃねぇ。じゃあナ!!」
石井は、指令室の隅っこに置かれた銀色のタンブラーをヒョイと取り上げると、さっそうと去っていった。
サンキュー石井は生きていた。
相変わらずのさぼり・冷やかし。あいつはレジスタンス全軍を、誉と量子をいら立たせる。しかしあのまま石井が救出に向かっていたら、敵の罠にハマって、死んでいたはずだ。
「あいつ、わざとやってるのか? それとも天然?」
誉には、サンキュー石井の真意が分からなかった。天賦の才か。
「お伝えします! 石井隊、無事、諸星奈々の救出に成功しました!」
あっけに取られている間に、今度は石井が奈々を救出したという報が入った。無人の石井艦を撃ち落とした敵伏兵が油断した隙に、石井はまんまと奈々を救出してしまったらしい。自分たちも石井に救われた訳だが、トリッキーなアイツでなきゃ、敵の裏の裏をかき、奈々を救出することは到底できなかっただろう。
「無事……救ったらしいな」
石井の船が、量子艦に戻ってきた。
「奈々!」
誉と奈々はようやく再会した。
奈々は、別れた時のギャルの格好のままだった。やつれた様子はない。
「あたし――助かったんだね」
奈々は眩しそうに顔をしかめた。ずっと闇の中にいたから、目が慣れないのだろう。
「そうさ。これでもうひと安心だ」
奈々によると、純黒星雲の中は、闇また闇で何もすることもなく、ひたすら眠っていたという。そのお陰でか、おなかがすくこともなかったらしい。夢の世界の方がフルカラーで、気がまぎれる。そんな中でも、地玉の林業部で採取したマグネット・クリスタルをずっと持っていたらしい。それは、純黒の中で奈々に、光を感じさせる唯一のものだった。光と熱を感じながら、奈々はそれを抱いていた。
「これで、何も気兼ねなくハンサモと戦えるな!」
サンキュー石井はニヤついて、誉の肩をポンッと叩いた。
いよいよ最終決戦!
世界の謎は解き明かされ、光と闇の、宇宙をかけた天下分け目の戦いが始まろうとしていた!!
「おみまいしてやろうぜい!! ハッハ、ハッハッハッハッハッハ!」
サンキュー石井は、誰よりも張り切っていた。
「大獏正一みたいに笑うわネ!」
そこにまた奈々はイラついている。
「一緒に戦おう」
誉は、奈々に言った。
「うん――でももうチーム編成決まってるみたい。あたし、サンキュー石井隊」
「そうなのか? 大丈夫かあいつで」
「いい加減でテキトーで、大嫌いだ!! でも、悔しいけど好きなんだ。それが、自分が男になる足かせになってるのが悔しい、悔しい……」
「あんな奴の一体どこが?」
石井は奈々の元カレだ。でも、ずっと嫌っていたはずだった。
「……」
「奈々」
「全部」
ガーン。誉は鉄槌を喰らった気分だった。
全軍、戦いに向かう最終決戦の最中、奈々は打ち明けた。
「大っ嫌いって言いながら、ホントは好きなの。そんな自分が、イヤ……」
奈々は告白を続ける。
「九割イイカゲンなのに、要領のいいとこだけいつもかっさらう。悔しいけど、そこが好き……」
奈々が石井を嫌いなのに、憧れているのだと誉は気づいていた。あの、サンキューの軽さに。女心は複雑? えっ女?!
奈々は誉とは、自分が男であることを打ち明けた、男の友情だと信じているらしい。そんな奈々に、誉は小麦色の肌を持つ女性の美しさにあこがれていたのだが。
石井と奈々は、宇宙艇で量子艦を去った。今度は、奈々は石井に身体を触られることを嫌がらなかった。正直言ってヤケる。
誉はショックを引きずったまま、二人を見送った。
「イイんじゃない? チーム編成が違うのはしょうがないヨ……、あれでよかったのよ」
と量子は誉を慰めた。
「そうだな……元サヤに戻ったって訳か」
今は量子が同チームだ。争ってる場合じゃない。