第11話 サンキュー石井、再び

文字数 1,276文字

 監視室の廊下を、ブーツの乾いた音が響く。
「ハハハ……今夜もお勤めゴクローさん!」
 細身の男は、二人の看守に笑いかけた。
「地球パンの差し入れだ!」
 サンキュー石井は、看守の前にパッと手のひらを差し出した。
 手のひらの中に何もない。その手をいきなり握り、拳を相手の顎にヒットさせた。
 バキッ。
「もう一丁っ!!」
 ドカッ!
 もう一人も倒した。二人の看守は完全に廊下に伸びている。
「フハハハハ! あー手がイテェ……」
 石井は、素早く二人の看守をひもで縛った。
「どうも、ジョニー・デップです」
 ドアを開け、軽薄な笑顔をのぞかせる。
「石井!!」
 誉は驚きのあまり、大きな声を出した。
「ヨォ! 上から読んでも誉田誉、下から読んでも誉田誉ッ! 救けに来てやったぞ。外の見張りは倒したぜ」
 石井は黒い軍服を着ていた。敵に成りすまして侵入したらしい。
 地玉住人も赤い制服のレジスタンスも一斉に脱出して、ゾロゾロと廊下に出ていく。それぞれ、素早く看守の武器庫から銃を手にする。
 廊下の大窓から、宇宙空間が見えた。
「俺のおかげで出られるんだ。感謝しろよ」
 救助に来たのが、星一番のスチャラカ男だとは。典型的な「トロイの木馬」を使ったらしい。この男のトリッキーな手口に、宇宙人たちはあっさりと騙されたに違いない。誉は、石井の意外な一面を見た思いだった。
「なんでオマエが……。あの時、どこ行ってた? ハンサモが来た時!」
 足早に廊下を進みながら、誉はどうしても確認しなければならなかった。
「星の裏側で甲羅干し」
 一人だけ昼間の住宅街に戻っていた。なんて奴だ。
「君らがハンサモとやり合ってる間、俺は星の裏側にいたんで星の爆発の影響が一番最後だったってワケ。宇宙貨物船で脱出して、最初にレジスタンスに接触してハンサモのやらかしたことチクッて、こうして救助に向かったんだよ! 俺ってやっぱ、決めるトコ決めるタイプなのよね!」
「奈々が連れ去られたんだ!」
「だから今から助けに行くって! 奈々は純黒星雲の中の星に捕らえられている。一緒に来い」
 話しているうちに、先頭を進んでいた赤い服のレジスタンスたちの姿が見えなくなった。次の瞬間、大きな衝撃とともに激しい戦闘音が鳴り響く。
 廊下の突き当りまで来ると、司令部はレジスタンスに占領されていた。
 そこで誉は、初めて敵戦艦の船内だと分かった。
「さすがだな、元地球人だけのことはある」
「やはり、我々にはない知恵と力を持っている」
「戦いにおいて、我々が教わることは多々ある。これからよろしく頼む」
 赤軍服のレジスタンスは口々に誉たちを褒めた。

 ゴゴゴゴゴゴ……
「こうしてお前と、手を組んで戦うときが来るなんてな」
 誉は石井に言った。とにかく、石井は奈々の情報を持っているらしい。この男の奇妙なふるまいにはさんざん振り回されてきたが、何より助かったのは彼のおかげだ。一刻も早く、奈々をハンサモの元から取り返さなければならない。
「あぁ、イイ奴だろ、実は。俺って」
 その目にはいつもの軽薄な光が宿っている。
 ……いや、全面的に信頼するのは止めていこう。
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