第2話 犯人は世界中の女性の中の誰かだ!

文字数 2,443文字

(2)犯人は世界中の女性の中の誰かだ!

 ダニエルは僕をジャンヌに紹介した。

「こいつはマルクっていうんだ。いい男だろ?」
「あんたは、そういう言い方しかできないのか?」
「まあいいじゃないか。マルクは第5小隊の中で俺の次にいい男だ」
「その言い方だと、自分が一番だと思ってる?」
「もちろん!」

 ダニエルとジャンヌは仲良さそうに話している。
 どこかの戦場で同じ部隊にでもいたのだろうか?
 僕がそう思っていると、ジャンヌが僕に自己紹介した。

「はじめまして。私はジャンヌ。よろしく」
「マルクです。こちらこそ、よろしくお願いします!」
「敬語を使わないでよ。私もあなたと同じ伍長なんだから」
「何て言うか、女性兵士と話すのが初めてだから。どう話したらいいか分からないんだよ」
「確かに。この国では女性兵士は珍しいわね」
「ダニエルから聞いたけど、第9小隊に所属していたんだよね?」
「そうよ。1カ月前の戦闘で全滅しちゃったけどね・・・」

 僕は余計なことを聞いてしまったと後悔した。

「ごめん。悪気はなかったんだ。気を悪くしないでほしい」
「別にいい。一人だけ生き残ったから『スパイじゃないか?』とか陰口も多いけどね」
「生き残ったことを素直に喜べないなんて、どうかしてるよ」
「しー。そんな言い方したら軍法違反で捕まるわよ」
「そうだね。気を付けるよ」

 ***

 ― また、あの夢か?

 僕は激しい雨音で目を覚ました。天気予報では暴風雨が1週間は続くと言っていた。
 早く晴れになってくれないと収穫の時期を逃してしまう。

 僕の名前はドレーク。今日が二十歳の誕生日だ。
 僕の家は農家だ。と言っても、広大な農場を保有する大規模農家だ。
 収穫量も多いし、従業員もそれなりにいる。販売先は国内企業、国外企業など様々だ。

 僕が他人と違うことが分かったのは10歳の頃だ。
 夕方に農場を歩いていると眩しい光が見えて、別人の記憶が蘇った。俗に言う『前世の記憶』なのだろう。ただ、確かめようがないから、本当に前世の記憶なのかは分からない。

 前世の僕は、二十歳の誕生日に恋人のメアリーに殺されて死んだらしい。
 いや、メアリーが犯人ではないかもしれないな・・・

 前世の僕を殺したのは、メアリーかメアリー以外の誰か。
 すなわち、全世界の人間が容疑者だ!

 ― ポンコツ探偵だな・・・

 前世の僕が誰に殺されたかはさておき、前世の記憶はとても役に立った。
 学校で学習する内容は二度目だから、勉強しなくてもテストの成績は良かった。
 前世の僕は恋愛経験が豊富だったらしく、恋愛テクニックを駆使してよくモテた。
 二度目の人生も悪くない。そう僕は思っていた。

 今日、僕は二十歳の誕生日を迎える。前世の僕が死んだ日だ。
 現世の僕も死ぬのだろうか?

 雨が少し弱まったので、僕は農場の方へ向かった。恋人のエミリが来る前に栽培している穀物の状態を確認するためだ。
 雨でドロドロの道を歩いていたら、木の下に女性が倒れているのを発見した。

 雨宿りしていて眠ってしまったのだろうか?
 それとも、風に飛ばされた何かに当たったのだろうか?

 僕は女性に近づいて行って声を掛けた。

「大丈夫ですか?」
「◎△$♪×¥○&%#?」

 女性は何かを言ったのだが僕には理解できない。
 外国語だろうか?

 ― 言葉が通じないのはキツイな・・・

 僕は「ケガはないか?」と身振り手振りで伝えながら女性に近づいた。
 僕が女性の肩を触れた瞬間、わき腹に違和感を持った。
 冷たいのと熱いのを同時に感じる。

 違和感のある部分を手で触ると血が出ていた。

 ― 暴漢と間違われたんだな・・・

 僕はそのまま道に倒れこんだ。
 どうやって意思疎通を取れば良かったんだろう?

 綺麗な女性だったからいつもの調子で声を掛けてしまった。
 女性を警戒させてしまった僕にも落ち度はある。
 治安のいいエリアだと思って油断していた。
 あの状況で肩を持ったのはまずかったな。

 犯人の名前が分かれば、僕が次の人生で犯人を見つけられるかもしれない。
 でも、言葉が分からないから無理か・・・

 一度目はメアリーかメアリー以外の誰かに殺された僕。
 二度目はどこの誰かも知らない女性に殺された僕。

 前回の犯人は世界中の男女の中の誰かだったけど、今回の犯人は世界中の女性の中の誰かだ!
 前世よりも容疑者の数を半分にできた。上出来だ。

 ― 本当にポンコツ探偵だな・・・

 朦朧とする意識の中で僕は考えた。

 ― 次も二十歳の誕生日に死ぬのかな?

 『二度あることは三度ある』って言うし。
 そう考えていると、眩しい光が見えてそのまま僕は意識を失った。

 ***

 戦況は相変わらず厳しい。僕は敵の攻撃が止むと同時に倒れているジャンヌに駆け寄った。

「ジャンヌ、ケガはないか?」
「無くはないけど、死ぬほどではないな」
「どっちやねん?」
「上手く避けたから大丈夫」

 ジャンヌは冗談を言えるくらいだから無事だろう。
 僕は少し安心したものの、僕たちの置かれた戦況は芳しくない。

「良かった! でも、安心はできない。銃弾がそろそろ底をつく」
「弾切れか・・・」
「弾は有限だ。いつかは尽きる」
「ところでさ、マルクは最後の1発の銃弾をどう使う派?」
「『どう使う派』って何?」
「知らない? 銃弾が1発になった時、最後の1発を自殺用に使うか、敵にぶっ放すかだよ」
「聞いたことある。どっちだろうな? 最後の1発になってみないと分からない。ジャンヌは?」
「私? 逃げるかな。最後の1発で敵を倒せるわけがない」
「二択の質問しておいて、その答は反則じゃない?」
「まあ、いいじゃない」
「確かに1発で敵を倒すのは無理だな。僕も逃げようかな・・・」
「逃げ帰ったら『スパイじゃないか?』と疑われるよ?」
「ジャンヌみたいに?」
「そうだね。それでもいいなら・・・」
「じゃあ、ジャンヌと一緒に逃げる。でも、銃弾1発だと不安じゃない? 10発は欲しいな」
「そうね。銃弾が残り10発になったら逃げる! それでいい?」
「いいよ」
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