第2話

文字数 2,310文字

 ライナは狭い通路を進む。壁にかけられた古い絵画や彫刻がこちらを見つめてくるようだ。それらはどれも不気味で、彼女の不安を増幅させたが、好奇心がの方が優っていた。通路の終わりには、重厚な木製の扉が立ちふさがっていた。彼女はその扉を開けるために、力を込めて押したが、びくともしなかった。

「どうしよう、、」
 彼女は考え込んだ。扉の横にある小さな鍵穴を見つけ、閃いた。彼女は懐中電灯を置き、ポケットからヘアピンを取り出して鍵穴に差し込んだ。数回試行錯誤した後、カチッと音がして扉が開いた。

 中に入ると、広い部屋が広がっており、実験器具や古い書類が散乱していた。壁には大きな本棚があり、埃をかぶった古い本が並んでいた。ライナは興奮と緊張が入り混じった気持ちで部屋を見渡した。

 慎重に歩き回り、棚に並んだ古い本やファイルを調べ始めた。

「これだ、」
 埃まみれの日記を見つけた彼女は、何となく手にとり、そのページをめくり始めた。そこにはドクター・フェルナンドという人物の名が記されていた。

「ここは、ドクター・フェルナンドの研究室なの、、フェルナンドってもしかして、あの、」
 
 研究ノートには、彼が行っていた奇妙な実験の詳細が書かれていた。ライナはその内容に目を見張りながら、さらに読み進めた。しかし、すぐにその好奇心は不快感へと変わった。

「やだ、なにこれ、気持ち悪い、」
 彼女はドクターがある種の生物を作り出す実験をしていたことを知り、驚愕した。人間をはじめ霊長類の動物の脳を食べることで、永遠に生き続けることができる生き物を作る研究を行っていたのだ。
 日記やノートに記載された、正確で詳細な動物の臓器の絵などを見て彼女は吐き気を催した。先ほどまでの好奇心はもうほとんど小さくなって、今度は早くここから出たいという恐怖心が大きくなってきた。
 急に、ここは自分がいて良い場所ではないような気がしてきて、急いで帰ろうとした。
 
 しかし、その直後、彼女の背後から低い唸り声が聞こえてきた。ライナは恐る恐る振り返ると、そこには巨大な化け物が立っていた。その姿は人間と動物が混ざり合ったような異様なもので、鋭い牙と赤い目が不気味に光っていた。彼女は恐怖で動けなくなりそうになったが、すぐに我に返り、日記を掴んで逃げ出した。

「ここから出なきゃ…!」
 彼女は必死に走り出し、狭い通路を駆け抜けた。
 しかし、彼女は来た道、出口の方への道とは逆の方に走っていってしまった。そして暗い地下施設の中で迷子になってしまった。
 化け物の唸り声が背後から響き渡り、ライナの心臓は早鐘のように打ち、全身が緊張で震えた。彼女は廊下を曲がりくねりながら、何とか化け物から距離を取ろうと必死だった。途中で何度もつまずきながらも、彼女は本能でただ逃げ続けた。通路の角を曲がるたびに、化け物が迫ってくる気配を感じる。彼女は自分の呼吸が荒くなるのを感じながら、さらに速度を上げた。パニックになり、なにをどうすれば良いのかわからくなっていた。

 しばらく逃げていると、彼女は古びた扉を見つけ、急いで中に飛び込んだ。
「ここに隠れよう、、」
 扉を閉めて内側からロックをかけ、しばらく息を整えた。部屋の中は真っ暗で、埃が舞い、匂いも酷かったが、彼女は少しの間だけでも安全な場所を見つけたことに安堵した。

 しかし、警察に電話をかけようとするも、繋がらなかった。

「そんな、どうしよう」
 
 懐中電灯を静かに照らし、持ってきた日記の中に、何か助かる方法がないか探した。すると、化け物の弱点についても触れられている箇所を見つけた。そこには、特定の薬草が化け物に対する唯一の対抗手段であることが記されていた。ライナはとりあえずその情報を頭に入れ、恐怖から日記をしっかりと抱きしめた。
 周囲を見渡すと、その部屋の中にもフェルナンドの研究資料が散らばっていた。
「これがドクターの研究資料、、なんでこんなことを、」
 落ちている資料を手に取った次の瞬間、突如扉が破壊され、化け物が再び現れた。ライナは逃げる暇もなく、化け物に捕まってしまった。

「いやああああ、誰か、助けて、!」
 彼女の叫びは虚しく響き、その声は教会の外の誰にも聞こえない。そしてそのまま気絶、意識を失ってしまった。

 何時間かして彼女は無を覚ますと、自分が手術台のようなものに縛り付けられていることに気づいた。ライナは絶望感に包まれ、自然と涙が流れ出た。
 周囲にあの化け物たちがうろついている。恐怖に怯えながらも、必死に抵抗を試みた。しかし、手首と足首はしっかりと拘束されており、拘束具が少しカタカタと鳴るだけで細んどびくともしない。

「どうすればいいの、殺されちゃうの?」
 ライナは心の中で叫びながらも、どうしようもない状況にただ従うだけだった。
 彼女はドクターの日記に書かれていた情報を思い出し、化け物を封じ込める方法を探した。しかし、その方法を実行する手段が見つからないまま、彼女の体は手術台にしっかりと固定され、自由を奪われている。

 ライナの目は涙でいっぱいになり、脳内は恐怖と絶望に支配されている。
「これで終わりなの、?」 
 
 彼女を取り囲む化け物が、哀れな目つきでこちらを見ている。よく見ると、ある者は、猿のような腕をして胴体は人間だったり、またある者は頭蓋がなく脳がむき出しになっていたりした。
 あまりの気持ち悪さに、嘔吐してしまった。仰向けになっているから、吐瀉物がそのまま口に戻ってくる。経験したことのない悍ましい状況に、ただ涙を流すだけだった。

 手術台の上で動けない彼女の心には、一筋の光が差し込むことを願うことしかできない。
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