第2話(3)実質頂点

文字数 1,799文字

「まったく……」

「だ、誰?」

「おやおや、わたしのことを知らないとは……」

 眼鏡をかけた青年が呆れたような視線を美蘭に対して向けながら生徒会室の中へスタスタと入ってくる。

「し、知らないわよ、転入生なんだからしょうがないでしょう?」

「……これまでも」

「は?」

「そうやって知らないで済ませてきたのですか?」

「え?」

「情報弱者は淘汰されていくのがこれからの世ですよ?」

 青年は生徒会室の中央辺りで美蘭の方に振り返り、眼鏡をクイっと上げる。

「じゃ、弱者って私のこと……?」

 美蘭が自らを指差す。

「貴女以外に誰がいるのですか?」

「! い、言ってくれるじゃないの!」

 美蘭がムッとする。

「……」

「大体、あなたこそ私のこと……」

「亜久野美蘭……2年V組の転入生……」

「!」

「……存じ上げていますが?」

「わ、私がさっき転入生って言ったからでしょう⁉ たまたま目にした情報を覚えていただけのこと……!」

「好きな食べ物はサバの水煮……」

「‼」

「……いかがですか?」

「なっ……そんな情報は自己紹介でも言っていないはず……」

 美蘭は困惑する。

「貴女のことは一応ですが、リサーチ済みですよ」

「そ、そんな……」

「この学院の学生や教職員のデータについてはすべて把握していますから……」

「! す、すべてですって……?」

「ええ」

「あ、ありえないわ……!」

 美蘭が愕然とする。

「それがありえるのですよ」

「ば、馬鹿な……」

「この生徒会の頂点に立つ者ならば当然です」

「ちょ、頂点?」

「ええ、そうです」

「あ、あなたは一体……」

「この最上学院の『最高』の生徒会副会長、青港正高(あおみなとまさたか)です……」

「え……?」

「以後、お見知りおきを……」

 正高と名乗った青年は軽く頭を下げる。

「ふ、副会長と言いました?」

「ええ、言いましたね」

「そ、それでは、頂点ではないのでは?」

「はあ……」

 正高は露骨なため息をつく。美蘭が戸惑う。

「ええ?」

「貴女も所詮はその程度ですか……」

「そ、その程度って……」

「人を肩書でしか評価出来ないとは……」

「い、いや、副会長は副会長でしょう?」

「組織というものは大なり小なり、ナンバー2が支えているものです」

 正高が右手でピースサインを作る。

「そ、そうでしょうか?」

「そうなのです。例えば、新撰組の土方歳三などはご存知ありませんか?」

「お、『鬼の副長』の……」

「そう。彼が新撰組の組織というものを作り上げた……」

「はあ……」

「故に……」

「故に?」

「ナンバー2が実質頂点なのです」

 正高がピースサインから、中指を折り、人指し指をビシっと立てる。

「そ、そうでしょうか⁉」

「そうなのですよ」

「……さっきから黙っていれば、聞き捨てならねえな……」

「あ……」

 強平が土下座した状態のまま、正高を睨む。

「おや、聞こえていましたか……」

「嫌でも聞こえる! 誰が頂点だ⁉ 会長は俺だ!」

「お飾りに過ぎません」

「なんだと⁉」

「貴方には知性というものがまるで感じられない。野生味は多少あるようですが……」

「カ、カリスマ性だってあるぜ!」

「自分で言いますか、それを……」

 正高が呆れる。

「う、うるせえな!」

「仮にカリスマ性というものが備わっていたとしても、簡単に土下座するような人間には無用の長物でしかありませんね……」

「! こ、これは……!」

「プライドというものがないのですか?」

「い、いや……」

「まあ、貴方はそれくらいの方が良いですよ」

「な、なに?」

「『頭が高い』という言葉があるでしょう? 貴方は本来、それくらいわたしに下手に出るべきなのです。もっとも、元々わたしより背が低いですが……」

「! なっ……」

「ちょっと!」

「うおっ⁉」

 美蘭が正高の足を払う。不意を突かれた正高は膝をつく。美蘭が声を上げる。

「あなた何様よ! そうやって人を見下すような奴が人の上に立つべきではないわ!」

「⁉」

 驚く正高の視線を受けて、美蘭がハッとする。

「……あ、い、いや、これは……!」

 室内にブザーが鳴る。強平が舌打ちする。

「悪の組織が侵入⁉ 現在出動出来るのは……」

 正高がすっと立ち上がる。

「……わたしが行きましょう……『セイバーチェンジ』!」

「えっ⁉」

 正高が左腕に着けた腕時計を操作すると、青い眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。

「少しお待ちください。悪の組織を片付けて参ります」

「ブ、ブルーセイバー⁉」

 窓から飛び出していった正高の背中を美蘭は驚きの目で見つめる。
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