第1話

文字数 1,003文字

「ねえ、咲良(さくら)明日ヒマ?」
そろそろ三月という二月の終わりの金曜日、HRが終わって帰り支度をしていた私のところに、百々花(ももか)が近寄ってきて話しかけてきた。
百々花は、中学2年生になるときのクラス替えで初めて一緒のクラスになった、私の数少ない友人の一人だ。
うまくクラスの輪に溶け込めず、ひとりで行動しがちだった私に声をかけて、一緒に行動してくれて、他のクラスメイトの輪にも溶け込みやすくしてくれた。
大人になった今だからそう思えるけれど、当時は時として(私はひとりのほうが気楽なのに)と不満に感じていたこともあった。
 
「明日?」
「うん。明日の土曜日」
「ヒマだけど…」
「じゃあさ、お出かけしない?」
「お出かけ?遊びにとかじゃなく?」
「まあ遊びと言えば遊びだけど。とりあえずお出かけ」
「いいけど。どこに?」
「それは明日のお楽しみ。じゃあ明日の11時に、K公園の入口ね…あ、寒くない格好で来てね」
そういうと百々花は(バイバイ)と大きく手を振って教室を出ていった。
同じく(バイバイ)と顔の横で振った手を下ろしながら私は(お出かけ…?)と頭の中を?マークでいっぱいにしていた。
 
 
翌日の11時。
私は約束の時間の5分前に、待ち合わせ場所に着いた。
昨日、百々花が寒くないようにと言ってたから、デニムのパンツとダッフルコートの下には、ニットまで着込んでいる。
待ち合わせ場所には百々花が先に着いていて、私を見つけて両手を頭の上で左右に大きく振った。
「時間どおり。さすが咲良だわ」
「ごめんね。待たせちゃったんじゃない?」
「ううん。私も来たばっかりだったし…じゃあ行こうか」
「あれ?今日は二人だけ?」
いつもだったらクラスの優(ゆう)ちゃんとかきいちゃんとか、誰かしら一緒に行動していて、それが当たり前になりつつあった私は、不思議に思って百々花に聞いた。
 
「うん。今日は二人だけ。デートよデート」
そういって百々花はクスクス笑った。
「じゃ、行こっか」
「行こって…どこに?」
「ん?お・は・な・み」
「お花見?もう咲いてるの?」
「まかせなさあ~い」
 
そういうと、百々花はスタスタと歩き出した。
一瞬遅れて、私も後をついて歩く。
 
K公園…ここは遊具で遊ぶというよりも庭園が有名な公園で、お花見の時期になると多くの人で混雑している。
でも今はまだ二月。
花なんてほとんど咲いてない。
だけどそんな中を、百々花はどんどん奥の方に歩いて行った。
 
 
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