第3話 戦争の夢を見たことはあるか

文字数 803文字

「戦争の夢を見たことはあるかい?」
唐突にシンジは、僕に問うた。

昼下がりのカフェテラスは人もまばらである。
シンジと僕は、講義の合間などに他愛のない話をする。
どんな夢を見たか、といった話題も時々ある。

「戦争の夢か・・・あるかなぁ。戦争映画を見た後とか?」
記憶をたどりながら僕は答える。
僕もシンジも自身の戦争経験はない。
祖父母の戦争体験を聞くか、映画かゲームか何かで見るか、あとは、テレビニュースか・・・。
そんなきっかけでもないと戦争の夢なんか見ないだろう。

「そんなんじゃないんだよな・・・」
シンジは、自身が見た「戦争の夢」について語り始めた。

「戦争映画を見ているとかそういう感じじゃないんだ。
 まず、平和な状態があって・・・それは滑らかな感じなんだ。
 で、端の方からギザギザしてくる・・・
 そうだな、正座して足が痺れた時の状態とかに似ているかも。
 そのギザギザした痺れは、端からどんどん広がる。
 辺り一面がギザギザ、チクチクした状態で覆いつくされるんだ。
 これが『戦争』の状態。
 で、しばらくすると収まってきて、元の滑らかな状態になっていく・・・
 それで、『戦争が終わった』と感じるんだ」

僕は、武器も兵士も出てこないシンジの話を聞いて「どこが戦争なのか」と思った。

「その夢って、『戦争』なの?
 だいたい『自分』は、戦争の最中どこにいるんだ」
つかみどころのない夢の話ではあったが、なんとか判ろうとシンジに質問をぶつけた。

シンジは、答える。
「自分の位置か・・・。
 そうだな、強いて言えば『地球』? 『大地』かな?」
状況全体を俯瞰している感じだともシンジは言う。

言われてみれば、シンジの夢の説明に視覚的な情報は何一つ入っていない。
いや、視覚情報だけでなく、聴覚情報も入っていない。
「滑らか」から「ギザギザした痺れ」そして再び「滑らか」・・・。

もし、地球に感覚があったら、戦争をシンジの夢のように感じているのだろうか?



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