第1話

文字数 672文字

 私の彼は黒い毛を生やしていて、グリーンと灰色を混ぜたような色の瞳をしている。身体がしなやかで尻尾は長い。肉球はぷにょぷにょ柔らかくてうっとり触っていると爪がニョキっと伸びる。そう、彼は黒猫なのだ。名前は親がつけたものでアンジーという。
 今日は大晦日だ。アンジーは炬燵の中でスヤスヤと眠っている。私はテレビを観ながら、ミカンを食べる。アンジーも食べるかと訊いたらツンとそっぽを向かれた。
「七菜香ちゃん、猫はミカンなんか食べないんですよ」
 お母さんが可笑しそうに言う。
「えっ、草は食べるのに?」
「ああ、あれね、アンジーは猫草が好きですよねえ、そうだ、お正月は出掛けたくないからホームセンターで買って来てくれない?」
「ええ、面倒臭いな」
「何を言ってるの、まだ高校生なんだから、動くのを嫌がるんじゃありません」
 お母さんにビシッと言われる。仕方ない。大事な彼の為だ。外に出ると、道端にあるコンクリート階段の上で茶色い虎猫が寝ていた。子供が遊ぶ遊具とグラウンドがある大きな公園だ。周りは木が綺麗に刈られていてほのぼのとした趣が感じられるところだ。猫が寝ていたのは、そこの公園にあがるための階段だ。アンジーより大きくてでっぷりと太っている。私は微笑ましく猫を見てからホームセンターへ向かう。あそこはお菓子も売っている。お煎餅を買って帰ろう。
 ホームセンターは雪かきのスコップが店頭に置いてあった。ここは都内なので雪が降ることは少ないが、それでも1年置きくらいに雪が降り積もる。そんな年は交通網が麻痺して、学校に行くのが大変になるのだ。
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