第5話

文字数 650文字

 10数匹の猫たちが悪戯っぽい目でこちらを見る。アンジーがすり寄って来た。私も身体をすり寄せる。私は何故かこの状況に順応した。猫又の催眠術だろうか。暫く戯れていると、身体が痒くなって足で顔を掻く。舌で毛づくろいをした。
「にゃあ」
 アンジーが私に何か布の切れ端をくれた。
「にゃあ」
 私はお返しに木の葉をあげる。そしてグランドを追いかけっこして走り回った。何だか楽しい。猫って自由なんだな。風がビューっと吹いて小さな楕円を描いた。
 除夜の鐘がゴーン、ゴーンと明るい街に響き渡る。そうだ!お父さんにつまみを頼まれていたんだった!何で忘れていたんだろう。私は尻尾が分かれている猫の前に行って懇願した。
「人間も戻してください」
「にゃにゃにゃ、いいにゃー、人間より猫の方が楽しいと思うにゃー」
「でも、お父さんやお母さんが心配するんです」
「にゃにゃにゃんと!」
「アンジーと家に帰ります」
 私はまた瞳孔が開いた猫の目で凝視された。ガーン、ガーンと頭を打たれたようになって頭痛がした。でも一瞬のことのようで突然に視界が高くなった。人間に戻ったようだ。手足を見て毛が生えてないことを確認する。ホッと息をついた。
 コンビニに行って裂きイカとクッキークリームのアイスを買った。猫缶も買ってあげた。
「アンジー、先に家に帰ってて」
 私はそう言うとまた公園に戻って猫缶を開けてジャングルジムの下に置いた。
「明日はカリカリを持ってきてあげるからね」
 家に帰るともう11時だった。もう直ぐ年が明ける。
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