第十話「最後のプライド」

文字数 864文字

スマホの表示は、mitsue ‥

ピピピピ ピピピピ

麻衣が顎を突き出し「出たら?」の合図を送るのを見て、康博はスマホを耳にあてた。

「こんな時間‥ていうのは分かってる」
「俺もお前も明日試験、てことも分かってるね?」
「うん」
「じゃあ、もう帰りなさい。大島さんに代わって」
「大島さん、帰っちゃった」
「なんだって!」
「杉本君連れてさっき‥」
「お前を置いて?」
「うん」
「澤藤とタケオは?」
「ずいぶん前に帰った」
「お前、今ひとり?」
「うん」
「大島さん何考えてんだ? 後輩の女の子ひとり置いて帰っちゃうって」
「私が帰ってください、って言ったの」
「なんで?」
「だって、大島さんは関係ないから」
「何が?」
「私と康博先輩のこと」

康博はミツエの言葉にハッとした。そして、自分がミツエのペースに持っていかれたことに舌打ちをした。

一瞬、ミツエに心が行った。怒りの矛先が別を向きかけた。
後輩の女子をこんな時間、ひとりにするとんでもない先輩‥
先輩に置いていかれた可哀想なミツエ‥

いや、そうじゃない!
康博は一呼吸おいて、結論を急ぐことにした。

「それで、今日どうするの?」
「‥‥」
「大島さんには、なんて言ったの?」
「友達のとこに泊まるって」
「あて、あるのか?」
「‥ない」
「お前、バカなんじゃないか」
「そんなに私をいじめないでよ」
「それは俺の台詞だ」
「だって‥」
「なんだよ?」
「‥私、寂しいよ」
「情けないこと言うなよ」
「ねえ」
「‥なんだよ」
「‥迎えに来てよ」

いよいよ最後のプライドまで捨てたな‥康博はそう思った。
でもここで折れたら、結果二人とも不幸になることを康博は知っている。

「俺は行かないよ」
「来てくれるまで待ってる」
「待ってるのは勝手だけど、行かないから」
「待ってるってば」

康博はそこで電話を切った。
すまん、すまんと言いながら麻衣に顔を向けると、何やら複雑な表情‥

「ん?どうした」
「ミツエちゃん、今どこにいるんですか?」
「聞くと、良心の呵責に耐えられないから聞いてない」
「先輩‥、外」

麻衣はそう言って視線を窓に向けた。

「!!」

いつの間にか、雪が降り出していた‥
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