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ねぇ、カティンカ。こんな物語があるの

 そう言って、お母様が取り出したのは、「ガーネットの姫」と言う本だった。絵本と言うには絵が少なく、小説と言うには絵の多いちょっと変わった本。


 その本を、お母様は幼い私によく読み聞かせてくれていた。

『ガーネットの姫』って言う存在はね、『ガーネットの女神』と言う神様から愛された存在なの
かみさまから……?すごい!
そうよ。『ガーネットの姫』は『ガーネットの女神』から加護と言う力を受けた女性のことを言うのよ。『ガーネットの女神』はムツキの国では『ムツキの神』の次にえらくて、みんなが崇めている存在なの
 幼いころの私は、難しい言葉なんて何も知らなくて、とにかく「ガーネットの姫」は神様から愛されて、特殊な力を持った存在、言うことしか分からなかった。そして、幼い私は「ガーネットの姫」に純粋に憧れていた。
おかあさま!どうやったら『がーねっとのひめ』になれるの?

 いつも私はそうやって同じことを聞いていた。


 子どもと言うのは不思議な存在。いつもいつも同じことを聞くし、好奇心が旺盛で、なんにでも興味を示す。特に私は人よりも好奇心が旺盛で、忘れっぽかった。だから、いつも「ガーネットの姫」になれる方法をお母様に尋ねていた。


 そんな同じことを何度も尋ねる私に嫌な顔一つせず、お母様は答えてくれた。

ふふっ、カティンカは『ガーネットの姫』になりたいのね。『ガーネットの姫』になれるのは、心が優しくて、精神が美しくて、そして容姿が端麗なことが条件なのよ
ようしがたんれい?せいしんがうつくしい?それってどういういみ?
容姿が端麗って言うのはね、とても可愛いか、とても綺麗か、はたまたその両方か、って意味なのよ。精神が美しいってのはね、もう少し成長したら分かるわ
え~!いましりたい!

 そう駄々をこねる私の頭を、お母様は優しく撫でてくれた。あの感触は、今となっても忘れない。


 そして、子どもと言うのはやっぱり不思議な存在で。少ししたら興味の対象もあっさりと変わる。「精神が美しい」と言うことに怒っていた幼い私は、すぐに怒りを忘れて、別のことに興味を持った。

ねぇ、おかあさま。おかあさまもむかしは『がーねっとのひめ』にあこがれてたの?なりたかったの?わたしみたいに
 本当に純粋だったと思う。私が、同年代の女の子たちがみんな憧れる『ガーネットの姫』。そんな存在に、お母様も昔はあこがれていたのだろうか。それが知りたくて、何も知らない私はそう尋ねた。
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登場人物紹介

カティンカ・リッツ子爵令嬢 十八歳


 本作品の主人公。超がつくお転婆娘の令嬢。過去にあったとあることが原因で男性不信になっており……。


 異性関係が絡まなければ、心優しく明るい令嬢。

ギルバート・ムツキ第一王子 二十一歳


 本作品のヒーロー。絵本から出てきたような完璧な王子様……の仮面をかぶった俺様ドS、女性不信のわがまま王子。


 四人の弟がいるが、ギルバートから見て全員腹違い。

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