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そうねぇ……

 お母様はそう言ってしばらく考え込んでいたようだった。そうして本を静かに閉じた。

……お母様も、昔は『ガーネットの姫』に憧れてたの。誰だって幼いころは夢見るものよ。お母様も、その一人だった

 一瞬悲しそうな瞳をしたお母様。私は幼心に何かマズイことを聞いてしまったのではないか、と思ったのは鮮明に覚えている。


 私の顔には焦りが出ていたと思う。けど、それに対して何かを言うでもなく、お母様は私に向かって微笑んで、抱きしめてくれた。

『ガーネットの姫』になれば、素敵な人と出逢える。幸せな結婚が出来る。幸せに一生を終えることが出来るって言うしね。……でも、お母様は『ガーネットの姫』にはなれなかった
……おかあさま、ごめんなさい……
どうしてカティンカが謝るの?お母様は今でも十分幸せよ。お父様は優しいし、カティンカのようないい子にも恵まれて、幸せなの。『ガーネットの姫』だけが、全てじゃないって分かった。それを教えてくれたのはお父様とカティンカなのよ
 そう言ったお母様は、泣きそうな私をまた強く抱きしめて、頭を撫でてくれた。そして、あの言葉は「『ガーネットの姫』だけがすべてじゃない。なれなくても努力次第で幸せになれる」と言う意味が込められていると知ったのは、あれから数年後。
そうなんだ……わたしね、『がーねっとのひめ』にあこがれてたの。けど、そのまえに、ぜったいにしあわせになる!しあわせなけっこんして、しあわせないっしょうをおえる!おとうさまとおかあさまみたいになる!
ふふっ、応援しているわ。頑張ってね、カティンカ

 その言葉を聞いて、私は安心したのか眠ってしまったらしい。


 『幸せな結婚』『幸せに一生を終える』『素敵な人と出逢う』そんな目標を幼いころの私は純粋に立てていた。


 人の悪意を知らず、貴族のいざこざも、世界も何も分からなかった無知の私。


 だけど、いつしか分かってしまったのだ。


 この世の中は、いいことばかりじゃないって。

…………
 部屋のベランダから見えるのは、木に巣を必死に作っている鳥。この鳥は、ここ一週間ほど休みなく巣をつくっている。必死に頑張っても、無駄に終わってしまうかもしれないのに。
 机の上に山のように積まれた縁談相手の候補の写真には、目を通したことはない。いろんな人が持ってくる縁談写真。けど、一つも目を通す気にはなれないまま。
カティンカ様。旦那様がお呼びです
……分かった。すぐに行く

 窓を眺めていた私に、そばにいたメイドが話しかける。どうやら魔法無線で連絡がやってきたらしい。

……カティンカ様。旦那様に会うのにその恰好はちょっと……
え?……あ……

 メイドに言われ、自分の服装を見ると、それはそれは動きやすさを重視し、ドレスの裾を切ったりした自作のドレス。


 ……確かに、これでお父様に会いにはいけない。と言うか、間違いなく「令嬢としてあり得ない!」と怒られるに決まっている。

……着替えるわ。手伝ってちょうだい
はい、カティンカ様
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登場人物紹介

カティンカ・リッツ子爵令嬢 十八歳


 本作品の主人公。超がつくお転婆娘の令嬢。過去にあったとあることが原因で男性不信になっており……。


 異性関係が絡まなければ、心優しく明るい令嬢。

ギルバート・ムツキ第一王子 二十一歳


 本作品のヒーロー。絵本から出てきたような完璧な王子様……の仮面をかぶった俺様ドS、女性不信のわがまま王子。


 四人の弟がいるが、ギルバートから見て全員腹違い。

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