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文字数 1,226文字
お母様はそう言ってしばらく考え込んでいたようだった。そうして本を静かに閉じた。
一瞬悲しそうな瞳をしたお母様。私は幼心に何かマズイことを聞いてしまったのではないか、と思ったのは鮮明に覚えている。
私の顔には焦りが出ていたと思う。けど、それに対して何かを言うでもなく、お母様は私に向かって微笑んで、抱きしめてくれた。
どうしてカティンカが謝るの?お母様は今でも十分幸せよ。お父様は優しいし、カティンカのようないい子にも恵まれて、幸せなの。『ガーネットの姫』だけが、全てじゃないって分かった。それを教えてくれたのはお父様とカティンカなのよ
そう言ったお母様は、泣きそうな私をまた強く抱きしめて、頭を撫でてくれた。そして、あの言葉は「『ガーネットの姫』だけがすべてじゃない。なれなくても努力次第で幸せになれる」と言う意味が込められていると知ったのは、あれから数年後。
その言葉を聞いて、私は安心したのか眠ってしまったらしい。
『幸せな結婚』『幸せに一生を終える』『素敵な人と出逢う』そんな目標を幼いころの私は純粋に立てていた。
人の悪意を知らず、貴族のいざこざも、世界も何も分からなかった無知の私。
だけど、いつしか分かってしまったのだ。
この世の中は、いいことばかりじゃないって。
部屋のベランダから見えるのは、木に巣を必死に作っている鳥。この鳥は、ここ一週間ほど休みなく巣をつくっている。必死に頑張っても、無駄に終わってしまうかもしれないのに。
机の上に山のように積まれた縁談相手の候補の写真には、目を通したことはない。いろんな人が持ってくる縁談写真。けど、一つも目を通す気にはなれないまま。
窓を眺めていた私に、そばにいたメイドが話しかける。どうやら魔法無線で連絡がやってきたらしい。
メイドに言われ、自分の服装を見ると、それはそれは動きやすさを重視し、ドレスの裾を切ったりした自作のドレス。
……確かに、これでお父様に会いにはいけない。と言うか、間違いなく「令嬢としてあり得ない!」と怒られるに決まっている。