第1話

文字数 1,201文字

春と訛り

私は訛りを直すのを潔しとしなかった
上京を控えた同級生たちが
妙なイントネーションで話し始めることに
怒りや恥ずかしさのようなものを感じた
訛りなどいつでも直してやるさ
東京弁の演技などまだしたくはない
上京してもまだ頑なにそんなことを想い
案の定というか みんなに笑われた
どうして自分の話す言葉が笑われなればならないのか
そうなると ますま東京弁などで
話してたまるかなどといきり立つのだった
自宅から学校に通っている都会の同級生から
初対面の時 なかなかカッコいい奴かなと
思ったがしゃべり始めたらこりゃダメだと
思ったと親しくなってから云われた

才能がある男は敢て訛りを直さないのだ
寺山修司だってそうだろう
そう簡単に故郷を捨てられるか
アイデンティティを捨てられるか
俺はそんな薄っぺらな男ではない
訛ったままの男たちはみなそう思っているんだ
そんな言い訳を周囲はどう聴いていたか

自分に才能があったのかどうか知らない
多分 そんなものはないのだろう
そんなことはどうでもいい
だが 歳をとっても訛りはそのままだ
いつでも直せると思っていた訛りは
すっかり身に染みてしまったらしい
訛りだけは若い時のままなのだ

なぜ 自分の話す言葉が
嗤われなければならないのか 
東北人だけが

だが 訛ったままの東北人を見て
冷ややかに見ていた自分がそこにいたことを
自分は告白しなければならない


付録 ファンレターさまの紹介と私のコメント

訛りは故郷からの贈り物。自分の根底に流れている自分らしさ。そんなことを思いました。故郷の言葉を持たない私には少し羨ましく思います。マネしようと思っても、おかしなイントネーションになり、どうしても話せないのです。進学、就職を機に地方から上京してきた方々は、お国訛りで悩み苦労されてきたことでしょう。自称東京人は、ちょっとしたイントネーションの違いを嗅ぎ付けて、嘲笑する…何だか悲しいですね。自分らしさを隠さずに、故郷を誇りに思う気持ちを押し込めずに生きられる世の中になればいいのに…。自称東京人も、実はかつて地方から上京した人達も多いのではないでしょうか。訛りを気にせず、堂々と話す人達がカッコいいと思います。訛りだけは若いまま、と最後に書かれていた言葉が気に入りました。どうぞ、これからもカッコいいままでご活躍下さい。応援しております。


お便りありがとうございました。なぜ、東北人だけその話し言葉を嘲笑されなければならないのか、それは歴史的な問題も深く関わっていているのだろうと思います。同級生たちが悲しい訛り矯正トレーニングを自らに課していたことを思い出します。それを私は頑なに拒否しました。そんな屁のツッパリ、蟷螂の斧が自分のアイデンティティだったのかもしれません。理不尽なこと、人間の尊厳を踏みにじるようなことには例え不当な迫害を受けても抵抗してゆきたい、そんな気持ちだけは持っていました。今は大分、くたびれていますが。

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