第17話 魔界での激戦 2

文字数 2,778文字

 虎狼族の軍は、力押しで進撃してきた。堀、盛土、柵など防御も施した陣地に、真正面から攻撃をかけて来た。約三万、対する側は二万弱、しかもここに集結した兵力はさらに少ない。正規軍以外も含む、新には人間達も含む、質的な劣勢。虎狼族側がどれだけ情報を把握していたかははっきりしないが、かなり過小評価していたらしい。マリアとバディ達がそのような情報を流したせいもあるが。それに、陣地を強化して持久戦の様相になっては、不利になるのも事実であった。応急の野戦陣地の防御施設とはいえ、攻めあぐねた。次々に損害が出て、攻撃はは度々撃退された。遂に、虎狼族の魔王が、攻撃の先頭に立った。彼には勝算が十分あった。相手は魔王石から見捨てられた、単なる元女魔王、一女魔族に過ぎない。一騎打に持ち込めば、一蹴できる。こちらが一騎打ちを求めて拒否したら、士気は大幅に下がるだろう。どちらにしても、相手は総崩れとなるはずだった。
「2人がかりか。いいだろう、受けてやろう。魔王の力を失った元魔王だ、ハンディをやらねばな。しかし、それはお前の愛人か、あわれない奴よのう、震えておるぞ。」
 余裕を持っていた。“全く情報を与えられていない?”
 マリア達は、返す言葉もなく、斬りかかった。そして、瞬く間に、虎狼族の魔王は追い詰められた。
「ひ、卑怯者!一対一の戦いではないか!貴様は、誰だ?」
 慌てて怒鳴った。その声に呼応して、彼の親衛隊が、慌てて飛び出して来た。それには、すかさずバディが立ち塞がった。見る間に押し返し始めた。
「おや?それだけ分厚い魔鎧を着込んで、そんなものなのか、お前の力というのは?」
 2人同時攻撃で与えた手傷以上に、彼女は虎狼族の魔王を圧倒していた。
「卑怯者に言われたくはないわ!2人がかりとは!」
 彼が、2人がかりでの攻撃を容認したことも忘れたようである。マリアにとっては、2人での攻撃で与えた打撃以上に、相手に対して有利な戦いを演じているような感じた。
「このクソ淫乱女が!」
 魔大剣を、渾身の力で振り下ろした。マリアはそれを軽く受け流していたが、今度はそれを受け止めた。
「遅いな。軽い。この程度が、我が都の魔王神殿から受けた加護か?魔剣も、魔鎧もこの程度か?勇者ロジャーはもっと強かったぞ。」
 彼女の言葉が、さらなる怒りに油を注いだ。激しく剣を繰り出してきた。全て受け流され、逆にマリアの剣にいつの間にか傷つけられていた。“奴との戦いで鍛えられていたのだな。”
「これで終わりだ!」
 魔石の全てが光出した。詠唱を素早く口にした。数条の黒い光が、マリアに向かって放たれた。奥の奥の手と考えていた魔法だった。しかし、それは彼女の緑の光に中和されて消えてしまった。驚愕する前に、体の力が抜け、地面に巨体が崩れ落ちた。いつの間にか、深手を幾つも負っていた。
「いつの間に…。なんだ、その力は…。所詮は道具の借り物、いつか…。」
 マリアはまず、剣を素早く首に突き立てて、止めをさした。それから、
「地力の差、そして…、愛の力だ。」
 バディを見ると、親衛隊をあらかた倒した彼と視線が合った。その彼はというと、女の魔族の首根っこつかんで引きずっていた。それを見ると、マリアは、潮が引くように、後退していく虎狼族の軍を確認することもせずに、すごい速度で歩み寄った。形相も恐ろしいほどだった。
 女は獣人(狼又は野犬)系魔族の虎狼族の中でも、人間系に近い種のようだった。
「その女。どうするつもりだ、まさか・・・」
 彼は少し微笑んで、
「大将がやられても、躊躇したせいもあるだろうが、すぐ逃げようとしなかった、まあ、それで私に倒されたのだが、力も出すまえに。それに幹部の一人のようだ。虎狼族との交渉の使者にとかに役にたちそうかと思ったんで、お前に見てもらおうと持ってきたのだが。どうだ?知った顔か?」
 そう言って、物のように、彼女の方に放り投げた。そのぞんざいさと女の顔にも容姿にも関心を示していない様子に彼女は安心した。それで、少しかがんで女の顔を見た。狼耳の髪は金髪、どことなく、人間に近い顔立ちなのに、何故か狼のような印象を感じる。高位の虎狼族の着ける鎧を身に着けている。近衛部隊の幹部クラス?首をひねった。記章が虎狼族の上位、魔王の信任の印もある。過去の記憶の糸を手繰っていって、しばらくして思い出した。
「虎狼族の使節にいた、次席クラスで。あやつ、直属の監視役、報告役だったな。あ奴の側近の一人だ、その上、有力な一族出身だったはずだ。使えそうだ。」
 マリアは、そう言いながら、自ら頷いているのを見て、バディーは嬉しそうな表情を見せた後、
「すごい形相だったが、どうしたんだ?私がこいつに手をだそうとしているとでも?それで嫉妬してくれたのか?」
 真顔でのぞきこんだ。彼女が否定する隙を与えず、抱きしめて、
「私はお前以外に関心はないよ。」
「馬鹿者。場所をわきまえろ。我も同じだが、もちろん。」
 そう言いながら、彼女は強く抱きしめ返した。二人はしばしそのままだった。ちなみに、2人とも一応不可知結界を急いで張っていたが。
 このまま追撃戦に移った。虎狼族が立て篭もって抵抗する場面はどこもなかった。敵地であり、統制する者がいなくなり、抑えの兵がなければ、とにかく速やかに撤退するしか方法がなかった。逆にマリア達から見れば、元々自分達の土地であり、進撃は歓呼で迎えられた。そのまま一気に、王都を回復した。問題は、服属していた異種族が独立しようという動きを示していることだった。彼らは全てではないが、居住地と周囲の地域を占領して、虎狼族以外に対しても侵入を拒否し、全力で侵入を阻止しようとしていた。彼らとは、まず、交渉をおこなうこととした。かなりの不満があったものの、敵を増やすべきではないことから、何とか収まった状況だった。
 王都に入ったマリアは、バディを連れて魔王神殿に入った。王都は、虎狼族によりかなり破壊されていた。王都と言っても、軍事、政治、宗教的な機能が大きく、経済的な都市機能はあまり大きくなかった。とはいうものの、マリアの治世で、そういった機能が成長しつつあったから、その破壊の影響は大きかった。本来ならば、その再建から始めるべきなのだが、それはマリアも強く思っていたが、魔族にとって彼女が魔王神殿に入ることは大きな意味をもつものであり、疎かにできなかった。バディも連れて入るのはどうか、とロジャーは思ったが、
「夫を、妻と入ることも多い。2人の関係を明らかに申告、認められる必要があるのだ。特に、2人が共同と言う場合にはだ。」
と言って、有無を言わさず手を引いて入ったのだ。直ぐさま入ったことで、反対、不満を持つ勢力はあったが、彼らが言うことを思いつく前に行動されてしまった形となったのである。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み