第19話

文字数 531文字



 あれから数十年も経つというのに、バレリーナは出会った頃と変わらなかった。

 見た目で変わったのは髪型くらいで、以前はいつもお団子にしていた髪を、緩くひとつ結びにしていた。

「久しぶりね」

 にこっと笑って、バレリーナはソファに腰掛ける私へコーヒーカップを差し出してくれる。
 向かい側のソファに座ったバレリーナが紙に包まれた角砂糖を四つ、コーヒーに入れるのを見て私は思わず笑ってしまった。

「どうしたの?」
「ううん、何でもない」

 バレリーナはコーヒーをほんの少し飲んでから、カップを目の前のセンターテーブルの上に置いた。

「どうしてこの場所がわかったの?」
「バレエ教室の先生に聞いて」
「そうだったの。先生はお元気?」
「うん、今でもあの教室で教えてるよ」

 バレリーナは懐かしむように目を細めた。

「バレリーナは、今はどうしてるの」
「ボランティア活動をしているわ」

 聞いたところバレリーナは今、貧困や戦争など様々な理由で心に傷を負った子供達の心のケアをする活動をしているそうだ。

 施設に赴き、一緒に絵を描いたり、絵本を読み聞かせたりして過ごすと彼女は話してくれた。

「私がピルエットをするとね、笑ってくれるのが嬉しいの」

 バレリーナはそう言って、木漏れ日のような微笑みを浮かべた。


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