第3話

文字数 961文字

 頭をワシ掴みにされた。そのまま身体を持ち上げられる。ヒロミは本当に死んだと思っているのだろうか。いや、嘘に決まっている。これから俺をもてあそび、ヒロミ独自の筋肉ハントに入るんだ。皮を剥ぎ、肉をむしる。そして筋肉を薬品に漬け込み、骨の髄まで細胞を抽出するんだ。嫌だ。ハントなんてされたくない。俺はもっと強いハンターになりたいんだ。
 ヒロミを、この伝説のハンター、ヒロミを倒すんだ。例えそれが反則だとしても。究極の筋肉神ヒロミに立ち向かい、死んでいった仲間達のために。
 そして倒すことが出来たら、今のハンター仲間に伝える。筋肉ハンター狩りの犯人はヒロミだったということを。

「ん、息してるね。演技してたんだ? 生きてる内に筋肉は奪うものだからね。では、いただくよ。まずはこの上等な上腕二頭筋から!」
 ヒロミの手が俺の腕にまとわり付く。俺はようやく力が戻ってきた腕に瞬時に力を入れた。そのままヒロミの手を払って、距離を置いた。地面に低く前傾姿勢をとる。
「ぼうや、元気だね!」
 ケータイの位置を確認した。ヒロミの後方二メートルに落ちている。
「来なよ! ほら早く! 待ちきれないよ!」
 駆け出せば何かしらの一撃が来る。こちらからの一撃をもって身体を向こう側に入れ替えるか……。待てば不利。掴まれれば最後だ。
「びびったのかな? この老いぼれに。それじゃ、あたしから行くよ」
 ヒロミが消える。人間の動体視力では追い付けない。いや、それは正面に立ってはいない証拠だ。ヒロミは左右どちらかに移動している。
 走れ!
 空気の慟哭が耳を貫いた。身を屈めて攻撃をかわす。ヒロミがすぐ横にいるんだ。俺はケータイに手を伸ばし、拾い上げる。暗証番号は三ケタだ。ハチ、イチ、ナナ。ケータイから針が二センチ程、伸びる。
 また空気が唸り声を上げる。左足に衝撃が走った。すぐあとに鋭い痛みが襲う。足首と膝との間、丁度、真ん中あたりで折れている。そのまま転倒してしまう。思わず叫び声を上げる。だが、痛みにのたうち回るわけにはいかない。ヒロミがもがき苦しむ俺を見下ろしていた。
「グッナイ! ボーイ!」
 ヒロミは拳を突き落とそうとしていた。しかも金属性の棘の付いたメリケンサックを嵌めて、だ。
「つーか、おやすみ」
 俺はケータイをヒロミに向けた。


           了
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