第35話 遼子は止む無く夜の水商売の道へ入って行った

文字数 1,288文字

 中学卒業時に進学か就職かの選択を迫られた遼子は丸山先生に相談した。
「十五歳で就職して自活するのは非常に厳しい状況だからね。出来れば、高校か専門学校か或いは職業訓練校へ進学した方が良いわね」
 遼子は金の掛からない市立の普通高校へ進学することを決めた。
施設の子の一割余りが就職して社会へ出て行ったが、直ぐに辞めてしまったり、その後行方知れずになったりして、将来的に生活を安定させて自立出来た子は非常に少なかった。
高校へ進学した遼子はアルバイトを始めた。
喫茶店のウエイトレスになってお運びをし、スーパーやコンビニや和菓子店等のレジに立って金を稼いだ。施設から貰う小遣いは微々たるものだったので、本を買ったり服を買ったり、或いは、夏休みに施設が催してくれる海水浴やキャンプに参加する小遣いも入用であった。そして何よりも、十八歳で施設を出て行く時の資金を確保することが必要だった。アパートを借りるだけでも相応の資金が要る筈だと遼子は考えていた。特に夏休みには、親の有る子は多くが親元へ帰って行ったが、両親ともに居なかった遼子には帰る所は無く、もっぱらアルバイトに精を出した。
 高校を卒業して施設から巣立って行く子供たちの為に、三月最後の日曜日に歓送会が催された。
共に居住する全六棟の子供達や職員が全員参加し、日頃お世話になっている篤志家や出入り関係者やボランティアの人達等多くの人々が集まった。
簡単な施設長の挨拶で会はスタートし、皆はケーキやサンドウィッチや菓子、寿司等に舌鼓を打って賑やかに談笑した。ジュースもお茶もコーラもどれもが美味だった。そして、棟毎に此の日の為に準備した出し物を披露し、唄ったり楽器を弾いたり、フォークダンスに興じたりして子供達は皆、生き生きと明るい笑顔を振り撒いた。
最後に来賓の一人が励ましの挨拶をしてくれた。
「今年学園を巣立つ人だけでなく、皆さんは何日か此処を出て行くことになります。その時、一番初めに感じるのは、孤独、です。でも皆さんは独りじゃありませんよ。今此処に居る皆さんは兄弟姉妹であり、施設長を初め職員の皆さんは親御さんです。みんな家族なのです。だから決して独りだとは思わないで下さい!未だ子供である皆さんには、今、私が言っていることは簡単には解からないかも知れませんが、何日か私の言葉の意味を理解してくれたら嬉しいと思います」
参加者全員で記念写真を撮って歓送会は終焉した。
遼子は皆と別れるのはとても辛かったが、きっといつか必ずまた逢える、また逢おうね、と心の中で呼びかけていた。
 施設を巣立つ時、奨学金を貰ったり篤志家の支援を得たりして大学へ進学する者も二、三人は居たが、遼子は、兎に角、将来の自活と自立を第一に考えて、住み込みで働ける就職先を探した。
 だが、卒業したとき、遼子には就職先も住むアパートも無かった。施設長が保護者という生徒をOLや店員で雇う会社は無かったし、その上に未成年という子供にアパートを貸してくれるところも無かった。派遣やパートの仕事では自分一人の食い扶持さへ覚束なかった。遼子は止む無く夜の水商売の道へ入って行った。
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