第3話

文字数 2,547文字

 H2Oの『思い出がいっぱい』
 青春時代の甘酸っぱい思い出が蘇るような名曲で、私もカラオケで何度も歌った経験がある。
『手に届く宇宙は 限りなくすんで 君を包んでいた』の部分は、抽象的過ぎて理解不能であるが、そんな事はどうでもいい。何となくそれっぽい雰囲気を楽しめばいいからだ。私の言いたいことはそんな事ではない。
 一見、何の矛盾もない歌詞に思えるかもしれないが、注目したいのは二番の歌詞。
『ひとりだけ横向く、記念写真だね~』
 片思いをする純情な気持ちが垣間見られる素晴らしい場面だ。
 しかし、これはおかしい。ケチをつけずにはいられないのである。
 ここで登場する記念写真とは、おそらく卒業式などの集合写真の事だと思われる。だが、カメラマンは大概においてプロのはずだ。仮にプロじゃなく、教師の誰かだとしても、団体写真で、一人でも横を向く人物がいたとすれば、シャッターを切る前に注意をしただろう。誰しもが「もう少し右へ」とか「もっと顎を引いて」などと注意された経験があるのではないだろうか。たかがそれくらいで注意を受けるのだから、

集合写真なんて絶対にあり得ない。
 もし、このような写真が実在するとすれば、横を向いた人物ではなく、カメラマンが責められるべきである。きっとこのカメラマンも出来上がった写真を見て、落ち込んだに違いないし、実際に誰かに怒られたのかもしれない。
 また別の角度から見ると、面白いことが判る。記念写真の時ですら、憧れの人を眺めているのだから、きっと以前からしきりに顔を向けていると考えられる。だとすれば向けられた相手及びその周りの人は、当然のように視線に気が付いているはずだ。それでも脈が無いということは、つまり察しろということである。
 更に言うと、一番のサビ、『大人の階段昇る 君はまだシンデレラさ 幸せは誰かがきっと 運んでくれると信じてるね』及び、二番の同じ個所、『ガラスの階段降りる ガラスの靴、シンデレラさ、踊りで足を止めて 時計の音 気にしている』
 これはいかがなものであろうか。
 シンデレラのストーリーを鑑みると、わざと靴を落としているようにも取れる。何故なら王子様が靴の持ち主を探しているのを聞きつけるや否や、自ら名乗り出ているからで、実に計算高い女と言えるだろう。それなのに『幸せは誰かがきっと 運んでくれると信じてるね』とは、ちゃんちゃら可笑しい。
 ガラスの靴でガラスの階段を上り下りしている情景は危険極まりないが(大体ガラスの靴なんて靴擦れするだろうに)、そんな事はどうでもよく、私が注目したいのは次の通りである。
魔法が解ける時間が迫っているにもかかわらず『踊りで足を止めて 時計の音 気にしている』場合ではなく、さっさとその場を立ち去るべきだ。
 深読みすると、敢えて王子様に私の正体を知ってほしいとも、解釈できなくもない。どちらにしても、したたかでヤバい女であることに間違いはない。
 前項と合わせて、カラオケに行く際は、ちょっと頭のねじが緩んだ曲である事実を掌握しながら歌ってほしいところだ。

『KSK』という歌をご存知だろうか? 
 元総理大臣の孫であり、タレントとして活躍しているロックミュージシャンで、「ウィッシュ!」の決め台詞が有名なDAIGOの曲である。
 現在の妻である女優の北川景子にプロポーズに使った言葉がKSKらしく、結婚(K)し(S)てく(K)ださいの略なのだそうだ。DAI語らしい強引さだ。
 そのエピソードを歌にしたのがこの曲だ。
 注目したいのは『70億分の1のKSK(キセキ)』の部分。KSKを「キセキ」と読ませる微妙なセンスは、この際置いておくとして、世界の総人口が七十億なのだから、その中の一人とめぐり逢った奇跡とは、男女の運命的な出会いを例えた表現で間違いない。
 映画やドラマ、小説などにもたびたび使われる、使い古された常とう句であり、この歌詞以外でも何度も見たり聞いたりしたことがある。センスが古すぎて逆に新鮮に感じてしまうくらいだ。しかし、一言物申したい。
 確率計算は果たしてこれで合っているのか、という問題。
 殆どの人はバイセクシャル(性別にかかわらず、恋愛対象である人)ではない。DAIGOもきっとそうだろう。だとすれば、結婚相手は異性に限られるのだから、ブルゾンちえみのギャグを例に出さずとも、この時点で半分の三十五億。
 しかも相手がブラジルやアフリカの人ではなく、日本人とすれば、確率はもっと下がる。日本の人口を一億三千万としても確率は六千五百万分の一。それから結婚不可能な十六歳未満と、高齢者を省かねばならない。彼の年齢から考えれば、二十歳から四十歳くらいだろう。だとすれば二千万分の一くらいか? 更に既婚者を除くと、もはや一千万どころか五百万もくだらないだろう。この時点で七十億とはかなりの隔たりがある。
 しかもDAIGOの場合、結婚相手は女優である。タレントである彼とはジャンルが違うが、そもそも同じ芸能界なので、職場結婚といえるだろう。
 DAIGOはイケメンであり、実家が金持ちで、業界内でも性格が良いとされているらしい。テレビからもそれが伝わるのだから、間違いないと断定できよう。
 そんな彼がモテないわけがない。きっと彼は女優からアイドル、モデルにまで次々と声をかけまくった(か、どうかは知らないが)。
 結果として、たまたま北川が引っかかっただけなのかもしれない。
 もし、これがハリセンボンの近藤春奈や、おかずクラブのオカリナだったとしたら、もろ手を挙げて祝福しただろう。だが、相手は日本を代表するような、超がつくほどの美人女優。
 狙ったとしか考えられない。
 私に言わせれば、確率はせいぜい数十から数百分の一程度。七十億に比べれば、とんでもなく高い確率で、運命と言えるかどうかは微妙なところだ。
 この歌がヒットしたかどうかは知りたくもないが、もしヒットしたとすれば、正にKSK(キセキ)であり、こ(K)っぱずかし(S)いだろうな、北(K)川景子も、だ。
 離婚したらどうするんだ――などと余計な心配をしてしまう。
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