第3話

文字数 1,437文字

「どうするって、任務続行しかないだろ。」
「一人で?」
子供を悟す様な目線がやけに突き刺さる。
「いい?今あなたは小隊長として任務を続行したい。でも単独行動だから陸戦に遭遇する可能性の高いこの先は危険。小隊規模の友軍がいると心強い。そして私も上級指揮官がいない、他の小隊は全滅。そこで、私たち二小隊を合隊(二隊以上を統合すること)して、戦備偵察を行う。どう?悪い条件じゃないと思うわ。」
一理ある。空爆は明らかに激化してる。万が一の陸戦に備えて頭数は多い方が良い。それに暫定国境沿いの配備状況が分かれば、こちらにとっても防備に有益な情報になる。
「分かった。よろしく頼む。」
「よろしく!」
パン、と乾いた音と共に固い握手を交わす。
「岩見中尉、君の他の小隊員はあたりにいるのか?」
「もちろん。」
そういって差した指先はクリーム色の廃小屋だった。旧新所原駅の駅舎か。すっかり崩れてホームと一体化した新所原駅の橋が日差しを遮る。
「来て。」
彼女の透いた声で正気に戻る。童顔に見合わぬ高身長の兵士は、瞬く間に車道の堀へ吸い込まれていく。
空爆の戦果だろうか。この地区は元々、山の裾野に住宅街が広がる平穏な地だった。第三セクターの、ローカルな列車が良く映える、日本の地方都市だった。もう面影は微塵も残っていない。不続の道路も無数の陥没の穴に蝕まれている。新所原駅の格子状の木舎も、残った廃路線を遮る角材として、僅かな通りの希望をも下している。
「小隊長!」
『どうした!』
「あっ…」
咄嗟に出た返事に軽い後悔を覚える。
「小隊長。そちらは?」
「友軍よ。第3旅団第31戦闘隊の月島中尉。」
「よろしく。」
若い。
ざっと15人はいるか。ほとんどの隊員は同い年に見える。まだ入隊したてか。成人してすぐの若い兵士も見受けられる。
「小隊長。向こうはどうでしたか?」
小隊のベテランか。周りの兵士より一回り年のいった頑強な佇まいの彼が聞く。
「やっぱり活動隊はいなかったわ。おそらく今朝の空爆で他小隊も被害を被った様ね。彼以外は。」
「どうも。」
「申し遅れました。私、第54戦闘隊第3小隊隊員の氷山遼曹長です。」
「第3旅団第31戦闘隊の月島日向中尉だ。よろしく。」
「月島中尉の隊も空爆に巻き込まれましたか?」
「ああ。私以外の小隊は正直生存しているか分からない。私の隊も今は分散行動中で、暫定国境付近で集合する予定だ。」
「そうですか。やはり、日本政府側の空爆は確実に激化しています。良質共に。防空システムの構築は急務です。」
「スティンガーは?*」
*スティンガー…携帯式対空ミサイルのこと。
「この小隊はニ基だけです。正直、六基は必要です。」
会話を聞いている後ろの隊員がスティンガーを振って示す。
携行式の強槍は、薄い煙を吐き続けていた。
「偵察機をやったのか?」
「いや。足が早く逃げられました。でも今朝の戦闘ヘリは一機やりました。」
「腕が良いんだな。」
「いえ…」
そう言いつつ、満面の笑みを浮かべる彼にどこか懐かしさを感じる。
「小隊集合!」
岩見小隊長。
「突然だけど聞いて。これから私たち第四小隊と第31戦闘隊第三小隊は合隊する。どちらも一定数が空爆で数を減らしている、こういう状況下です。互いに協力して、防備と偵察の任を遂行します。良いですね。」
『了解!』
先ほど座っていたより人数がいたことに驚く。20人はいるか。小隊として申し分ない戦力だ。
「まずは旧湖西市西部の暫定国境を目指し、第三小隊との合流を目指します。総員、出発準備!」
「ハッ‼︎」
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