第1話

文字数 1,072文字

20XY年。
日本は、戊辰戦争以来の「内戦」に直面していた。

その主戦場は、静岡県。
5年前の5月。
20XX年の総選挙によって誕生した反米左派による日本政府と、右派・反政府勢力「東海共和軍」の対立は激化していた。収まら無い反政府運動に痺れを切らした政府側は、国会で鎮圧法を強行採決し、共和軍の排除に乗り出した。反発する共和軍側は実力抵抗を開始。政府側の警察に圧倒される中、共和軍は静岡県に後退し、同地を籠城の地とする事を決意。弾圧された議員や活動家の多くが静岡県出身だったことから、同軍は静岡県民の支持を得る。事態が膠着する中、日本政府は遂に「治安出動」を宣言し、自衛隊を投入する。6月4日、共和軍側は「東海共和国独立」を宣言し、自衛隊離反部隊と共に戦闘に突入。以後120日間に渡る武装闘争を得て、両者は一時停戦で合意し、事態は一応の収束を見せた。後に、「第一次日東戦争」と呼ばれることになる内戦の終結だった。しかし、共和軍の激しい抵抗を政府側が完全に鎮圧することができず、終戦合意は難航する。複数の閣僚が反対する中、当時の首相・河田兵一は治安出動の強化と継続を強行。反発した共和軍側は、「独立死守」を掲げ抵抗を継続した。

こうして現在、静岡県全域は日本政府によって「特別自治県」として都道府県から離れた扱いを受け、独立を認めていない。だが実態は、東海共和軍が全権を掌握しており日本政府の管轄は及んでいない。

静岡県は、事実上独立状態にある。

◎20XY年6月1日 旧静岡県湖西市新所原駅付近
暑い。
初夏を告げるラジオも汗で画面が滲む。背負う一丁のカービンも重量を増したように感じる。
もう何時間歩いていてきただろうか。
錆び切った二条の鉄塊は、大きく蛇行しながら水平線の先へ消えていく。駅も列車も座り切った風景は今が朝だという実感を一瞬にして吹き飛ばす。流石に疲れた俺は、道端の、すっかり新緑と一体化したディーゼル車に身を寄せることにした。ヘルメットを取る。7年前に支給されたこの迷彩柄のヘルメットに、今や緑はない。ふと列車の側面の文字が目に入った。
"We will never give up"
蛍光塗料だろうか。
俺たちと意思を共にした、かつての英雄たちが残した遺言だろう。俺の身分証にも同じ言葉が書かれている。

不意に雑草を踏む音がした。
反射でカービンを握る。列車の角か。列車のプレートはまだ、朝の日射を跳ね返している。
見えた。兵士だ。
引き金に力を込める。その時だった。

「待て!!」
クソ。気づかれたか。この状態はまずい。
間髪入れず対峙する。
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