第2話

文字数 1,163文字

「待て!!友軍だ!」
「誰か!?」
「友軍だ!東海共和軍、第5機動旅団第54普通戦闘隊、岩見舞中尉!」
警戒は解かない。
「合言葉は!?」
「椎名37、仙山!」
合っている。まさか俺以外にも共和軍がここにいたのか。
「失礼した!俺は東海共和軍、第3機動旅団第31戦闘隊、月島日向。階級は中尉。」
「ええっ!?」
ただでさえよく通る彼女の声は、虫以外に鳴くもののいない廃路線の中でさらに大きくなる。
「月島中尉!?あの月島中尉ですか!?」
「そうだ。何か悪い噂でも聞いたのか?」
「いやいやいや!むしろ逆ですよ!あの月島中尉に会えるなんて!」
見かけ自分と大差ない年齢の彼女は矢継ぎ早に捲し立てる。
「なんていったって静岡革命(日本政府と共和軍の衝突事件)成功の立役者!私の第5旅団も月島に負けるなと旅団長から喝を入れられましたよ!」
「そうか。変に目立ったかもしれないな...。」
静岡革命。その単語を最後に聞いたのも数年前だ。
自分でもその乾いた笑いに軽く驚く。
「岩見中尉。君は何歳だ?」
不躾だと思いながら、先ほどからの疑問が口が先走る。
「もう!初対面でそれを聞きますか!」
「すまない。」
「29です!29!」
「同い年か!?」
「ええっ!?」
彼女の大きな驚きの仕草に俺も反射で驚く。
「それで?」
どうしてここにいるの、と問う彼女の目線は、身長178cmの自分の目線と大差なかった。
「第3旅団司令部の命令で、暫定国境付近に展開中の自衛隊部隊の偵察に向かうところだ。」
「一人で?」
「途中からな。俺ら31戦闘隊第二中隊第四小隊は装甲車で移動してたが、今朝の空爆が激化して散開せざるを得なくなった。陸戦にも遭遇した。だから次地点まで各自移動としたんだ。もしかしたら空爆でやられてるかもな...」
「日常ね。」
澄ました顔で空を見上げながら空返事をする彼女もまた、自分と同じライフルを持っていた。
「で。君はなぜここにいるんだ?」
「つまんないから。」
「え?」
「だから、つまんないの、あの小隊が。」
呆気に取られる俺を他所に、しゃがみながら続ける。
「うちの中隊、自衛隊側の陸上作戦に備えて湖西方面の防備を命じられたの。でも中隊長、拠点から旧天竜浜名湖鉄道沿いに進めば早いのに、戦車師団と共に行動できるようにって、県道から行くようにしたの。それで私の小隊、いや私が反対して別行動に走ったの。」
なんという破天荒。仮にも軍事組織として統制を欠いてはいけない。といってもこの「小隊長」には無意味か。
「それで?」
「他の小隊は今朝の空爆で全滅。」
ほら見ろ、そう言わんばかりの面持ちだ。
不意に轟音が響く。思わず二人とも身を屈める。
海上迷彩柄。政府側のF-2戦闘機。よく見ると武装は側面対空ミサイルだけだ。おそらく航空偵察に来たのだろう。今朝の空爆の戦果確認か。
「で?」
「え?」
「どうする?私たち?」
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