森の中の「何か」と「予感」

文字数 2,853文字

 森に入ってからどれ位歩いたかな。体感では1時間位は歩いていると思うけど。
 行けども行けども、同じような景色が続くばかり。
 森の中はそれほど歩き辛くはなく、素足でも特に痛みはなかった。

 その代わりかなりの頻度で何かしらの生き物と遭遇する。
 変な声で鳴く鳥が木の上から此方をジーっと見ていたり、ワニを二倍くらい大きくした見慣れないトカゲがノソノソと目の前を横切っていったり。(見た瞬間心臓止まるかと思ったよ!!)

 僕の記憶の断片の中では、自分が住んでいたと思わしき場所にはこんな生き物たちはいなかったと思う。
 単に僕が知らないだけで生き物図鑑に載ってたりするのかな?
 今の所、変な生き物に出くわしても此方に危害を加えようとするような生き物はいない。
 森の雰囲気も不気味だし、熊みたいなのが出てきたらどうしようと常に不安なのだけど。
 危害を加えられたら一時間そこらで僕の人生は幕を閉じる事になりそう。

 それにしても。
 本当に森から出れるのかな。
「ここ実は樹海で出口は無いんじゃ……」
 とさえ思えてきた。
 僕はまだ子供の女の子のようで、あまり体力が無く。
 10分程度歩いては一休みしつつ、なんとなくこっちかな?という方向へ歩いています。
「お腹すいた……」
 僕のお腹が警笛を鳴らし始めました。
 いつから食べてないのかな僕。
 花畑で目覚める前の僕はちゃんと食べたのかな。
 あ、でも死のうとしていたのだから食べてないかも。
 でもでも、最後の晩餐みたいな事もあるし。

「どっちにしたって今の僕には関係ないよね……」

 食べてようと食べてなかろうと今お腹がすいている事に変わりなし。
 だんだん投げやりになってきた……。
「うぅ……」
 森の中なら何か食べられそうな物があるかもしれないけれど。
 何分、僕には何が食べられて何が食べられないのかが解らないです。
 美味しそうなキノコなんかを見つけても、毒があったら嫌だし、何より火を起こすすべがありません。

 食べられそうな物が無いか探しつつ「なんとなくこっち」という直感通りに歩きながらとぼとぼと歩いていると日が落ちてきたのか、辺りが徐々に暗くなり始めたようです。
 言い様のない嫌な予感がしてきました。

 明るい内は特に身の危険は無さそうだったけれど、夜は違うかもしれない。
 僕は何故かその予感が当たるような気がしました。
「早く森からでなくちゃ」
 疲れていたけどちょっと早めに歩き出します。



 --------------
 完全に暗くなり、周辺は夜の世界へと変わり出したようです。
 視認はもう役に立たず。
 うう……怖いよぅ。
「お願いしますから、何も出てこないで下さい……。 何でもしますから」
 ぶつぶつと呟きながら、暗闇で何も見えない夜の森を歩いています。
 なんとなくという意識、いえ予感だけで。
 木の根に足を引っかけるとか、木の枝で腕を切ったりとかそんなトラブルは特に無く。

 程なくすると予感が的中したように、とても嫌な気持ちになってきました。
 例えれば心臓をゴムボールみたいにぐにぐにと弄ばれる感覚。
 本当にそんな事されたら、苦痛で転がり回ると思うけれどね。
 つまる所、非常に命の危険性を感じたのです。
 子供が怖がってるだけとか、風の音が声に聞こえたり、木の枝がお化けに見えたりとかそんな次元じゃなく。

 日が落ちはじめた頃からずっと歩き通しで、直ぐにでも座って休みたかった。
 休んだら駄目、急がないといけないという焦りと直感が今の僕を動かしていました。
「……こっちは駄目。仕方ない」
 途中、こっちに行くと危険な気がするとか、回り込んで行ったほうがいいかなとか直観が働いて、その分だけ夜の森を一人で歩き回るという恐怖を味いながら。

 何度か直感で回避ルートを辿っていた時。
 ふと、「何か」が近づいている感じがした。
「や……」
「何か」に気づいた瞬間、言いえぬ恐怖で足ががくがく震えだす。
 このままここにいたら、金縛りにあったようにその場から一歩も動けなくなると思った。
 さっきからそんな「予感」だとか「直感」だとかが僕に危険を知らせる。
「早く……早く逃げなくちゃ」
 恐怖で固まりかけた足を無理やり前に出し、そのまま全力で走り出す。
 後ろから何かが来ている。
 振り向いては駄目だと思った。遭遇したら終わりだと思った。
「やだ……やだっ……」
 必死に走っても少しずつ「何か」は僕を追って来た。
 数が増えている気がする。
 必死に走っても僕の体力ではまるで振り切ることが出来ない。
 もう直感でも回避出来ない程近くに「何か」を感じた。
 頬を手で撫でられる感覚。
 そのまま手は胸の部分まで降り、心臓の前で止まった。
「……っ!」
 もう駄目と思った瞬間、視界が開けました。
 街道かな?
 石畳が敷かれていて、明らかに人口的な手が加えられています。
 いつのまにか心臓に当てられた手のような感覚は無くなり。
 それと同時に何かが割れるような音がしたけれど、この時僕にはなんの音か解りませんでした。
「よかった……」
 街道に出ただけで安心した……のもつかの間。
 周囲の森から囲まれるような嫌な感じがする。
 一刻も早くここから立ち去りたい。
 この場にいたら本当に人生が終わる気がした。

 まだ森からは「何か」の気配がする。
 不思議と街道に出てからは追いつめられるような感覚はなかったけど、それも時間の問題だとも直感できた。
 直ぐに逃げよう。
 森の中からこちらを追っていた「何か」は少しずつ離れていくような感覚がありました。
「……はぁ、はぁ。ここまで来れば大丈夫かな?」
 ようやく安全を感じられるようになり。
 残りの体力を振り絞り全力で逃げたその先。
 森が両脇を挟む街道から抜けると、辺りには平原が広がっています。
 暗くてよく見えないけれど、道の少し先に何か建っているのが見えます。
 壁のようにも見えますね。

 全力で走ってきたので、疲れていて直ぐにはその建物の確認にはいけません。
 空腹もあり、疲労も溜まっていたから体力の限界かも……。
 力無く、その場に女の子座りでぺたんと座ります。

 街道に座って休みながらふと考えました。

 僕はなぜか「身の危険が事前に解る」みたい。
 最初は偶然だと思ってたんだけれど。
 夜になった森の中では強くその力を実感しました。

 何かの能力なのかな、第六感とか。
 記憶の断片にはそれに関する記憶はありません。
 目覚めた時から一人で心細く頼る者もいない僕には、今後もこの能力?にはお世話になりそう。

 息切れも収まりだし、あたりを見回します。
「ここ本当にどこなんだろ。断片の記憶にはこんな場所の記憶はないし……」
 自分の記憶にあるのは大きなビル。その間を縫うように走る車。
 そのような近代的な作りはどこにも無いです。
 田舎町かな?
 だとしても、さっきの危険な「何か」は何なんだろう?
 直感的に避けていたからか、「何か」は見ることはなかったけれど。
 やっぱりここは自分の知らない場所かのかなと、そう思いました。
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登場人物紹介

主人公。

元々は中学生の男の子。
とある理由で死亡し、異世界の地で何故か女の子として目覚めた。

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