余談

文字数 1,294文字

 一

 本文を書くに当たり、この強烈な読書体験から数ヶ月後、徳島県立図書館で改めて写真集『東大寺』を請求したが、提供が随分スムースになっており、司書さんも一人で対応できていた。どうやら、初めてか限りなくそれに近いタイミングで、この写真集『東大寺』に当時巡り会えたらしい。
 多少時期がずれても、あのPOPと見本が見せる異様さは私の目を奪ったであろうが、写真集『東大寺』本体に出会うあの強烈な体験は、あの瞬間でないと出会えなかっただろう。そう思うと、なんとも良いタイミングで巡り会えたものである。仕事で頑張った報酬かもしれない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 二

 さて、敢えて本文中では言及しなかったが、今回取り上げた写真集『東大寺』は、B2判(縦六九〇ミリメートル×横五〇〇ミリメートル)という規格外(いやまあB判はれっきとしたJIS規格なのだが)の書籍で、即ち見開きにするとB1判(縦七二八ミリメートル×横一、〇三〇ミリメートル)になり、長辺が一メートルを超えるというのだから凄まじい大きさだ。
 本のサイズ自体もさることながら、この大きさの印刷に対応できる印刷製本技術やカメラ技術にも驚くばかりである。丁度デジタル技術の黎明期から急成長期を生きてきた人間なので、理解はできるものの驚きが勝ってしまう。

 ついでにもう一つ、重さについてである。写真集というのは、インクを大量に紙へ付け、加えてそれに耐えられるよう厚手の紙を用いるので、結構重くなる。出版元である株式会社小学館曰く、この写真集『東大寺』は十三キログラムもあるらしい。あの司書さんたちの動きも納得である。
 あまりに重いので、手で持って読むというのは難しく、私は終始机に置いて、これを上から眺めるというスタイルだった。惜しむらくは、身長が高くないと写真を斜め上から鑑賞するようになるので、写真をやや扁平にしか見られないことだ。私は案の定やや扁平に見ることとなった。
 なお、この解決手段は用意されており、なんと専用の書見台が別売り(税込五万五千円)されている。

 最後に、値段について再度触れたい。
 三十六万円という数字は、貴重な古書でもない限り通常本に出す金額ではないだろう。昨今における地方公共団体の財政難は改めて説明するまでもないが、いくら地元出身の著名な写真家の作品とはいえ、普通の本であれば数百冊分に相当するこの一冊を収蔵する決断をしてくれた、徳島県立図書館とそのご担当の方々には深く感謝したい。
 ちなみに、国内で出版された全ての書籍を収蔵することとなっている国立国会図書館を除いて、この写真集『東大寺』を収蔵する図書館は、全国で三館ばかりである。一館は散々述べたとおり徳島県立図書館であるが、残るは、まあ流石というか都会は違いますなと思わしめる東京都立中央図書館と、収蔵理由はよく分からないのだが青森県立図書館である。奈良県ではないのか……。
 できれば私も買って手元に置きたいし、みなさんにも買って読んで欲しいのだが、いかんせん三十六万円は庶民に手厳しい。収蔵する図書館に寄られる機会があれば、是非手に取って(机に置いて?)みて欲しい。
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