第1話 十二支の推し

文字数 1,691文字

 今私の学校では男子を中心に十二支がブームになっているらしい。
 私のクラスのほとんどの男子も十二支を題材にしたスマホゲーム「3百万十二支」を休み時間に夢中でプレイしている。トランプしか娯楽を知らないと思われていた田宮ですら、このゲームをインストールしていることを知った日に、私は3メートル位斜め上に飛んでいくかと思った。左側かな。
 一方で、女子は誰一人このゲームをやっていると公言していないため、あまり情報が入ってこない。私はユーチューブの広告でたまに見かけるのだが、自ら調べようという気にはならない。ちなみに、その30秒の広告では「君だけの十二支を作れ」と謳っている。
 最近どうにもこのゲームが気になって仕方がない。だけれど女子は協調を重んじる生き物である。誰もこのゲームを始めてない状態で私が始めるのはリスクが大きすぎる。だから誰かと一緒に始めるのが吉なのだ。では、誰と始めるか。松島は人生でゲームをやったことないほどのアンチである。他に誘える人もいないので私はやらないという平穏と不快に自らを置いている。
 
 ある6月中旬も中旬。私が休み時間中に人参という人参を並べていた時のことだ。クラスで1番髪が短い男・白田が、クラスで28番目に髪が短い私に話しかけてきた。
「312やってるっけ?」
 「312」とは分かるとは思うが「3百万十二支」の略称である。
「やってない。うちのクラスの女子でやっている人いないんじゃないの」
 私は探りを入れる意味で聞いてみた。白田はなんだか嬉しそうな顔をしている。
「汲田はやってたよ。他にも何人かやってると思う。まあ、そんなことはいいんだけど、やってないならこの機会に始めようぜ。やるなら今しかない」
 なんだ、この押し寄せてくる勧誘は?
 クラスの数人の女子がこのゲームをすでに始めているという事実は、私にとってゲームを始めるハードルをぐんと下げているはずなのに、私はこのゲームに対して警戒心を強めた。警戒心を強めたということは気になっているということだ。それにしても白田の笑った顔は不気味だ。この不気味さがクセになると一部の女子から言われているらしいが、私は怖くてくるぶしが引っ込みそうだ。
「何か魂胆がありそうだけど」
「もち。魂胆あり。今誰かにこのゲームを紹介して初回ログインしてもらうと、双方にミノタウロスがプレゼントされるんだよ。これを逃す手はないっしょ」
 ミノタウロスなら全然逃せるが、逃したら最後、街は血の海と化すかもしれない。その可能性を考慮すると、街のため、世界のために逃すべきではないのかもしれない。私は完全にこのゲームに足を踏み入れようとしていた。そんな私を見て白田は笑いが止まらないようだった。この男、ミノタウロスをゲットして何をするつもりなのだろうか。せっかく私が人類のため、ミノタウロスを確保したとしても、この男がミノタウロスを解放してしまったら意味がないではないか。分かっている。ゲームの話だ。そんな危険が伴うわけがない。しかし、白田の顔はそこまで私を不安にさせた。
「始めたら人気の理由分かるからさ、ほらスマホ出してよ。チュートリアルまでやらないとプレゼントされないから、とりあえず一緒にやろう」
 私は悪魔のゲームをインストールしてしまった。なぜかゲームのアイコンは既存の十二支にはいない鹿のキャラクターだったことも、その禍々しさを強調していた。

 次回、みいこ、白田からゲーム説明を受ける!
 皆絶対読んでくれよな。

「まあゲームの概要としては、ガチャを回して、自分だけの十二支デッキを作ることが最終目的になる。そんで12匹のキャラクターを決めてこの完了ボタンを押すと全クリ」
 白田は人が次回に引っ張ろうとしたのをスルーして説明を開始した。許すまじ。そして何とも奥行きのないゲームだろうか。
「全部クリアするとどうなるの?」
「まあ、俺もまだ全クリはしてないから確かなことは分からないけど、ネタバレサイト見た感じだと、良かったねって吹き出しが出てくるらしい」

 次回、みいこ、「312」アンインストール!
 皆すごく暇だったら読んでくれよな。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み