① テイラーの生命中心主義の概要

文字数 1,213文字

4 版』[9]p.204)と述べられている。この内在的な価値のことが、ここで述べている生
物の固有価値のことである。生物多様性条約には言葉の定義が第 2 条に詳細に書かれているが、残念ながら内在的価値(固有価値)については定義が書かれていない。

これは、内在的な価値という言葉の掲載には賛成が得られたが、その定義の掲載については関係者間で同意が得られなかったことを意味する。

では具体的にいうと、生物の固有価値とは何であるか。この場合の固有価値とは、人間の存在がなくても、それぞれの生物に存在する価値のことである14。
そもそも価値とは、経済学者によれば人間の主観によって左右されるもので、人間がいなければ世界は無価値、ということになろう。したがって、人間の存在なくしてそれ以外の生物に価値を認めるということは、「価値」という定義を拡張していると見なせる。ここでの価値とは、生物にとって生きること自体が目的であり、したがって生きていること自体に価値があるという意味で従来の人間の価値観を超えており、その意味で非人間的あるいは人間非中心主義といわれる。

第 2 節 テイラーの生命中心主義
① テイラーの生命中心主義の概要

テイラーの生命中心主義15では、生物には固有価値があり、人間が人間を尊重するのと
同じように、生物は尊重されなければならない、したがって生物は人間と生きる権利において平等であるという考え方である。

テイラーの理論では、生物は「それ自身が善をもつ存在」16であるゆえに「固有価値」を持ち、人格を持った存在である人間は「生命中心主義的世界観」17を受け入れるので、生物に対し「自然の尊重の態度」を持つようになる。更にその際の「具体的な行動規範」と「人間と利害が衝突する際の優先順位付け」を明らかにした(Taylor[76])。前述の「それ自身が善をもつ存在」、「固有価値」、「生命中心主義的世界観」、「自然の尊重の態度」、「具体的な行動規範」、「人間と利害が衝突する際の優先順位付け」はテイラーの生命中心主義を理解する上での中心概念であるため以下に解説する。

生物の「それ自身が善をもつ存在」における「善」とは、その生物固有の性質を伸ばすことであり、従って、「それ自身が善をもつ存在」とは、固有の性質を伸ばすことのできる存在で、このことはすべての生物にあてはまる。

「固有価値」については既に第 1 節で述べたが、ここではテイラーの「固有価値」

14 Agar[2]
15 Tayler[75]、Tayler[76]を基本テキストとしているが、テイラー[77]の抄訳、藤井[19]、松岡
[47]、高橋[73]、伊勢田[30]も参考にしている。
16 Tayler[76]p.60「entity-having-a-good-of-its-own」の訳
17 Tayler[76]p.99「biocentric outlook」の訳。
8頁
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