謳う花
文字数 2,348文字
その内の一つが町の中にあった。【
そんな町は気高き山に囲まれ、他者からの侵入を
「──いらっしゃい。できたての
青空に雲がふわふわと浮き、太陽が眩しく地上を照らす日中。町中は人々の活気で賑わっていた。
湯気が暖かさを感じる包子、食欲をそそるような肉汁が出ている餃子など。野菜や肉の匂いが鼻をくすぐり、お腹を鳴らす者もいた。
数多くの出店が町の中心を陣取り、人々はそこに訪れる。そんななか、町の東側にある朱色の屋根の建物が列をなしていた。建物には【
店の前には白い
「二名のお客様、どうぞー……あら?」
女性店員が客を捌いていく最中、店の前を一つの集団が横切る。
それは黒い
そんな集団の一番後ろ……彼らから数歩後ろに、一人の男性がいる。男性は集団の中でも一際目立つほどに背が高かった。長い黒髪を三つ編みにした姿、そして何よりも、整った美しい見目が人目を
「……アイヤー。一番後ろにいる男の人、とってもいい男ね」
女性店員は思わず声にしてしまった。すると男性は彼女を見、横目に笑顔を浮かべる。
女性店員は顔を真っ赤にさせながら、去っていく彼へと「今度来てねー。割引するからー!」と、気持ちのよい楽しげな声をあげた。瞬間、同じ店員の女性に腕を掴まれてしまう。
「ちょっとあんた!」
腕を掴んだ店員は慌てて彼女を店の中へと引っぱった。
「あの人たちの事、知らないわけ!?」
「先輩、知ってるんですか?」
引っぱられた方はきょとんとしている。先輩と呼ばれた店員はため息をつく。
「あの人たちは【
「あ、それ聞いた事あります。術を専門にした、仙人様たちですよね?」
何が嬉しいのか、腕を掴まれた彼女は頬を赤らめて男を見つめた。
「はあー……綺麗な男性がいっぱいですよね。特に、あの一番後ろにいる人……」
後光が差してるような気がすると、うっとりしてしまう。
「……えー? 確かに綺麗な人たちかもだけど、後光差すほどじゃないでしょ?」
あんた目が悪いんじゃないのと、女性店員の視力を疑った。
女性店員は先輩の方がおかしいと文句を言い、彼らを指差した。しかしその直後、女性店員はあれと首を傾げてしまう。
「……さっきまでいたのに」
男性の集団はいた。けれど
「どうでもいいけど、仕事サボるんじゃないわよ?」
「あ、はーい!」
女性店員はまあいいかと、仕事へと戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆
町の
ふわりふわりと、赤や黄色い花たちが舞う。そんな花たちは、両手を伸ばしたある人物の手のひらへと落ちていった。
「──お帰り」
声の主が
華やいでいるわけではない。されど美しい。
そんな光景が広がっていた。
「……あ、そろそろ戻らないと」
声の主は薄暗い場所から身を乗り出す。
陽の光を直に受ければ、声の主の姿が明るみになった。
百六十センチ前後の身長、それでいて
瞳を隠すほどに伸びた黒い前髪は
上から黄、下にいくにつれて白くなる
一見すると老人、けれど声質からして子供のようだ。
そんな小柄な人物はふうーとため息を吐き、指に長い髪を巻きつける。
──
そこまで考えて首を左右に振った。手に持つ花たちをバッと、空中へ放り投げる。小柄な人物は花たちに背を向け、両目をきつくしめた。花びらの
「いつかは僕も……」
首にかけてある紐をそっとなでた。白く細い指が
両目を髪で隠しながら立ち上がり、両手を空へと
すると近くにあった
赤の
「…………」
細い指で花たちに触れる。すると
小柄な人物は驚くことすらせず、さも当たり前のようにそれらを見た。そして何事もなかったかのように
ふと、上から影が落とされた。何だろうと振り向いた瞬間──
「──ねえ、何してるの?」
低く、それでいて妙に耳に残る、優しい声が聞こえた。