01.昼下がりの再会

文字数 5,628文字




 今日は、あなたたちは休日です。

 中には無職の人もいますが、それぞれがお休みだったり用があったりして家の近所の公園にやって来ました。


 あなたたち中学校時代の同級生三人は、昼間の公園でばったり出会いました。




[君入 宗太郎]

どうも。こんなところで何してるの?

[山ノ下 かほり]

久し振り~

同級生の……何くんだっけ?

[君入 宗太郎]

あれ石田だよ

[山ノ下 かほり]

いや、キミキミ

[君入 宗太郎]

もうちょいもうちょい

もうちょいで出てくるよ


キミ~?

[山ノ下 かほり]

キミ?

[石田 光路郎]

おお、君入きみいりじゃん

[君入 宗太郎]

かほりちゃん、まったく覚える気ないやん

[山ノ下 かほり]

あ、石田くん久し振り

[石田 光路郎]

久し振り

もしかして山ノ下? ん? 合ってる?

[山ノ下 かほり]

忘れたの?

[君入 宗太郎]

石田っち老けてない?

[山ノ下 かほり]

何か苦労した?

[君入 宗太郎]

毎日大変そう、石田っち

[石田 光路郎]

ちょっと地下暮らしが長かったからね~

[山ノ下 かほり]

地下? 今何してんの?

[石田 光路郎]

今はもう自堕落な毎日を過ごしとるんじゃけど

[君入 宗太郎]

自堕落な毎日w

[山ノ下 かほり]

じゃけどww

[山ノ下 かほり]

ちょっと疲れたからベンチ座っていい?

[石田 光路郎]

ああ、丁度あるしね

[山ノ下 かほり]

座ったら?




 石田とかほりは公園のベンチに腰掛けました。




[山ノ下 かほり]

キミ…………座る?

[君入 宗太郎]

呼んだ?

[石田 光路郎]

久し振りに会ったんだから何か話そうよ

[君入 宗太郎]

いいよいいよ、喋ろ喋ろ☆

[山ノ下 かほり]

二人ともここで何してるの?

昼間の公園だよ?

[石田 光路郎]

ちょっと体を動かさないとさあ、最近運動してなかったから

[君入 宗太郎]

アップする動画の撮影ポイント探しててさ

[山ノ下 かほり]

公園で?

[君入 宗太郎]

公園で☆

[山ノ下 かほり]

…………火とかつけるの?

[君入 宗太郎]

イヤイヤイヤ、まだそこまで過激なコンテンツにしようとは思ってないんだよね

[山ノ下 かほり]

普段はどんなのあげてるの?

[君入 宗太郎]

普段はゲーム実況

[石田 光路郎]

へえ、そんなことしてるんだ

[君入 宗太郎]

まあだってほら、働くとかイヤじゃん?

[石田 光路郎]

それで収入得られるんだね

[君入 宗太郎]

石田っちは? 地下で何を?

[石田 光路郎]

ゴホッゴホゴホッ

ちょっと一年くらい肉体労働してたんだけど、最近ある程度まとまったお金ができたから何しようかな~と思ってる

[君入 宗太郎]

へえ~~~

[石田 光路郎]

あんまり大きな声で言えないんだけど、今は何もしてないんだよね

[君入 宗太郎]

全然いいと思うよ

YouTuber する?

[山ノ下 かほり]

二人で?

[君入 宗太郎]

いやちょっ、二人は無理

[石田 光路郎]

あれっ!?

[山ノ下 かほり]

光路郎と宗太郎の YouTube じゃないの?

[君入 宗太郎]

いやいや、しばらくは一人でやりたいんで

[石田 光路郎]

やり方を教えてくれるってこと?

[君入 宗太郎]

そうそうそう

[石田 光路郎]

そういうことね

[君入 宗太郎]

「石田っちの地下暮らし」みたいなね

[石田 光路郎]

もしかしたら気になる人もいるかも知れないしね

[山ノ下 かほり]

地下って穴掘ってたの?

[石田 光路郎]

ちょっと寝て~……まあいいや

[山ノ下 かほり]

あまり多くを語りたがらないようだ

[君入 宗太郎]

人生に謎が多すぎる

[君入 宗太郎]

地下暮らしが一年続いて、ある程度まとまった金があるってめっちゃ恐い

[山ノ下 かほり]

石炭とか掘ってる訳じゃないだろうし

…………逆に埋めるほうとか?

[君入 宗太郎]

かほりちゃんは?

相変わらず日本刀振ってるの?

[山ノ下 かほり]

何言ってるの、この子

[石田 光路郎]

何やってんの!? 今

[山ノ下 かほり]

実家の農業手伝ってるよ

[石田 光路郎]

あ、そうなの?

[君入 宗太郎]

この前、すごいいっぱい振り回してからな~

[山ノ下 かほり]

ていう夢?

[君入 宗太郎]

夢かなあw

[石田 光路郎]

この前会ったんだね、二人は

[君入 宗太郎]

ちょっと記憶は曖昧だけど

[山ノ下 かほり]

まあ、あんまり思い出したくないかな

[君入 宗太郎]

う~ん

[山ノ下 かほり]

普段は畑耕してるよ

[君入 宗太郎]

あ、そうなの

何作ってるの?

[山ノ下 かほり]

うーんとね、ジャガイモとかニンジンとか

[君入 宗太郎]

へ~、儲かる?

[山ノ下 かほり]

うぅ~ん……

[石田 光路郎]

コレ儲からないヤツや

[山ノ下 かほり]

ネットで売ったりしてるよ

買ってね

[君入 宗太郎]

うんうん、分かった

[山ノ下 かほり]

YouTube で紹介してよ

[君入 宗太郎]

何を?

[山ノ下 かほり]

野菜

[君入 宗太郎]

ジャガイモを?

[山ノ下 かほり]

ジャガイモ以外もあるし

[君入 宗太郎]

分かった分かった、気が向いたらね

[山ノ下 かほり]

アテにならないな

[君入 宗太郎]

ジャガイモだけ流す動画ってw

[石田 光路郎]

野菜使う配信のときは提供してもらえば?

[山ノ下 かほり]

その代わり「提供」って入れてよ

[君入 宗太郎]

分かった





[山ノ下 かほり]

二人は結婚してないの?

[石田 光路郎]

してない

[君入 宗太郎]

しないよ、するワケないよ

[山ノ下 かほり]

だと思った

[石田 光路郎]

じゃ聞くなよ

[君入 宗太郎]

www

[山ノ下 かほり]

一応聞いとこうと思って

[君入 宗太郎]

今日ここで二人は何するの?

[山ノ下 かほり]

わたしは午前中の農作業が終わったから、今は木材切ってた

[石田 光路郎]

ここで?

[君入 宗太郎]

ここで?

[山ノ下 かほり]

うん。天気いいから、のこぎりと木を持ってきて

[石田 光路郎]

このへんなんだね、家

[山ノ下 かほり]

うん。すぐ近所

[君入 宗太郎]

ちょっと動画に撮っていいかな?

[山ノ下 かほり]

のこぎり使うところを?

[君入 宗太郎]

木の切り方~

[山ノ下 かほり]

もう切っちゃったよ

[君入 宗太郎]

ウソ~

[山ノ下 かほり]

今からもう紙ヤスリかけるところだよ

[君入 宗太郎]

それでいいや

[石田 光路郎]

何をしようとしてるの? 木を切って紙ヤスリって

[山ノ下 かほり]

パームレスト自作してたの

手首痛くてさあ、家にある木材切ってパームレスト作ろうと思って今やってた

[君入 宗太郎]

へ~、すごいね

で、「穴暮らし」は?

[石田 光路郎]

ちょっと日の光を浴びようかなと思って

[山ノ下 かほり]

どれくらいの頻度で出てくるの? 週一とか?

[石田 光路郎]

そうそうそう、たまには浴びとかないとリズムが狂っちゃうからね

[君入 宗太郎]

そっかそっか

(大丈夫かねえ、この人)

[山ノ下 かほり]

地下暮らしの割には色が黒いね

[石田 光路郎]

地黒かな

[君入 宗太郎]

(石田っちの半生が分からない)




 あなたたちが盛り上がっていると、突然後ろから大型犬のゴールデンレトリバーが現れました。首元に赤いスカーフをした、大変毛並みの良い犬です。

 わんわんわん、とあなたたちが座っているベンチの周りを走り回ります。




[山ノ下 かほり]

誰かの犬? 連れてきた?

[君入 宗太郎]

かわいいね

[石田 光路郎]

そのうち飼い主が来るだろう

[君入 宗太郎]

おいでおいでおいで~




 パンパンパン、と君入が手を叩くと、ゴールデンレトリバーは喜んだ様子で君入に近寄ってきます。




[君入 宗太郎]

よ~しよしよしよし

[石田 光路郎]

動画に上げたほうがいいんじゃないの?




 突然ゴールデンレトリバーは君入の持っていたカメラをくわえたかと思うと、パッと離れました。




[君入 宗太郎]

お前ソレ高いんだからっ

[山ノ下 かほり]

え~~っ、追いかけよ

[君入 宗太郎]

高いんだから返せよ!




 ゴールデンレトリバーは器用にカメラのストラップを首にさげ、あなたたちのほうへ吠えて向かってきます。




[石田 光路郎]

賢いなアイツ

[君入 宗太郎]

中に人が入ってる?

[山ノ下 かほり]

おちょくられてない?

[君入 宗太郎]

待て~、待て~!

[石田 光路郎]

手伝い要る?

[山ノ下 かほり]

どうする? 挟み打ちとかする?

[君入 宗太郎]

二人も座ってないで手伝って!

[山ノ下 かほり]

誰かエサとか持ってないの? 魚肉ソーセージとかさ

[石田 光路郎]

ゴメン、手ぶら

[山ノ下 かほり]

手ぶらなのww

[石田 光路郎]

スマホならある

[君入 宗太郎]

カロリーメイトしか持ってないわ

[山ノ下 かほり]

カロリーメイトで寄ってくるかな~?

[君入 宗太郎]

みんな輪になってカバディ的なヤツしよ

[山ノ下 かほり]

カバディカバディカバディカバディ

[石田 光路郎]

カバディカバディ

[君入 宗太郎]

囲い込もう✨




 あなたたちが囲もうとしてもこの犬は大変頭が良く、脇を擦り抜けてかわしてゆきます。

 わんわんわん、と吠えたり引っ張ったり、あなたたちをどんどん誘導しているようです。




[君入 宗太郎]

待て~~!

[石田 光路郎]

こういうの追いかけちゃダメなんだよ

追いかけるから逃げるんだよ

[山ノ下 かほり]

じゃあどうする? 歩く?

[石田 光路郎]

寄ってくるまで待つの

待ちの一手だよ

[山ノ下 かほり]

おおらかだなあ




 君入が苦笑いしながらゴールデンレトリバーを走って追いかけると、ゴールデンレトリバーも走ってどんどん先へと行ってしまいます。


 君入はゴールデンレトリバーを追っていき、かほりもその後を走って追い掛けます。二人が追い掛けていったので、石田も渋々二人の後を追いました。






 あなたたちがしばらくゴールデンレトリバーを走って追い掛けていくと、公園の少し開けた場所に辿り着きました。


 そこには二人の人物がいました。

 一人は可愛らしい少女で、もう一人は見るからにオタクっぽい男性です。




こ、これは僕の気持ちだよ

男性が女性に時計を贈る意味を知ってるかな

あ、あの、困ります

受け取れません

何だと!? 僕の気持ちが受け取れないって言うのか!
知らない方から何の理由もなくそのようなものを受け取る訳には……




 その少女は男性に詰め寄られているようです。

 ゴールデンレトリバーは立ち止まり、二人のほうに向かってワンワンッと吠え立てます。




[君入 宗太郎]

犬捕まえた!

[山ノ下 かほり]

捕まった?

[君入 宗太郎]

やっと停まったわ~

ちょっと返してカメラ~

[山ノ下 かほり]

壊れてない?




 君入はゴールデンレトリバーからカメラを取り返しました。犬はワンワンワンッと男性と少女に向かって吠えますが、君入はカメラが心配で二人には気が付いていません。




[君入 宗太郎]

戻ってきてよかった~

マジ壊れてないか見よ~




 君入の服の裾をゴールデンレトリバーが引っ張り、二人のほうへ連れて行こうとします。




[君入 宗太郎]

ちょちょちょちょちょ、ちょい待って

[山ノ下 かほり]

何が行われてるの? 光路郎

単なる告白でしょ

[石田 光路郎]

ここはイケメンが颯爽とね

[山ノ下 かほり]

この中でイケメンと言ったら、宗太郎?

[君入 宗太郎]

何? どうした? カメラ? 取り返せたよ

[山ノ下 かほり]

カメラじゃない

[山ノ下 かほり]

助けるほどのいざこざじゃなくない?

[石田 光路郎]

まあー……

[君入 宗太郎]

前の二人やばくない?

[山ノ下 かほり]

え? やばいの?

いいから! いいから僕についてくるんだよ!




 男性は少女の腕をつかんで引っ張っています。




[山ノ下 かほり]

やばいな

[君入 宗太郎]

あれはやばい

ちょっと行こうよ

[山ノ下 かほり]

助けておいでよ

[君入 宗太郎]

分かった、行ってくるわ




 君入はカメラをかほりに渡し、男性と少女に近付いていきます。




[君入 宗太郎]

ちょっとそこの~、そこのキミ? キミキミキミ?

いいからこっち……何だよキミぃ

[君入 宗太郎]

この子めっちゃ困ってるから

関係ないだろっ

[君入 宗太郎]

関係ないかもしれないけどちょっと困ってるからさ~、まあまあ一旦落ち着こうよ

ウルサイ!

この子は僕のことが好きなんだ

[君入 宗太郎]

デブ

[山ノ下 かほり]

口が悪い




 君入は男性と少女の間に強引に割って入りました。

 しかし男性は少女の腕から手を離しません。少女は大変嫌がっている様子です。




[君入 宗太郎]

めっちゃ困ってるから、とりあえずさ、落ち着こうよ落ち着こうよ

関係ないだろキミは!

[山ノ下 かほり]

光路郎は行かないの?

[石田 光路郎]

ん? ちょっと見守っとこうかなって

[山ノ下 かほり]

何でだよ

じゃあわたし行くよ

[君入 宗太郎]

どうしたの? 何があったの?

何か助けて感がすごいけど

[山ノ下 かほり]

あんまり女の子の腕掴むのとかよくないよ

な、何だよお前ら~!

[山ノ下 かほり]

通りすがりだよ

[君入 宗太郎]

ソレソレ

[石田 光路郎]

かっけー

関係ないって言ってるだろお!

[君入 宗太郎]

とりあえず離そうよ、手を離そ

何だよっ……関係ないだろお前ら~~ッ!

[君入 宗太郎]

お前はそれしか言えないのかw




 かほりは少女に近付きます。




[山ノ下 かほり]

このオタクっぽい男の人は知り合い?




 かほりが尋ねると、少女は首をぶんぶんと振りました。




[君入 宗太郎]

知り合いでも何でもないじゃん

[山ノ下 かほり]

知り合いじゃないって言ってるし嫌がってるし

彼女は僕のことが好きなんだ!

[山ノ下 かほり]

とりあえず手を離そうか




 君入はおもむろにスマートフォンを取り出し、動画撮影を開始しました。




なっ! オマエ何撮ってんだよ~!

[君入 宗太郎]

いやあ、こういうのは証拠が無いとさ~

[君入 宗太郎]

嫌がってるじゃん

ちゃんと撮っておいて被害届でも出そうかな~ていう

[山ノ下 かほり]

手を離して話をしよう

女の子の手を掴むのはよくないよ

オマエ!

[山ノ下 かほり]

冷静になれよ

ちくしょう! 覚えてろよ~~ッ!

[君入 宗太郎]

うわあダサ~イ

走ってったよダサ~イ

[山ノ下 かほり]

もうデブとか言うから

[君入 宗太郎]

聞こえてないでしょ

[山ノ下 かほり]

アレ心の声だったの?

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登場人物紹介

君入 宗太郎(きみいり そうたろう)

非力な YouTuber・イリリンとして活動中。

大学で❝デビュー❞したため、中学時代の同級生にはあまり覚えられていない。

石田 光路郎(いしだ こうじろう)

無職。

一年間ほどの地下生活を経て、ある程度のまとまった金銭を得た。現在は金銭的に余裕があるため自由気儘な生活をしているらしい。

山ノ下 かほり(やまのした かおり)

農家に嫁ぎ、農作業を手伝いながら収穫物を個人のネットショップで販売したりしている。

橘 柚香(たちばな ゆずか)

名家・橘の深窓の令嬢。

たぶん可愛い。

しゃりんさん(キーパー)

初心者ぞろいのプレイヤーたちを真理へと導こうとする天の声。

ダイス

運命を左右する無慈悲な無機物。

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