第3話

文字数 680文字

 約束通り藤堂さんは、体育館での舞台稽古に、春季大会会場でのリハーサルにも本番でも、上手(かみて)のスポットライト操作をそつなくこなしてくれた。さすが大試合に強い元選手である。舞台稽古に初めてやってきた時、二年生も三年生も驚いたようだったが、演劇は水ものだかアングラだか、人が入れ替わり立ち替わりするので、みんなすぐ受け入れる。ウチの演劇部は来るものは拒まない。なんせ弱小だ。でもそこはいいところだと、前部長は密かに思う。

「ピンスポはカラーフィルムを使って色を変えるの。サスは調光卓で操作するけど、正面からの光が無いと、役者の顔が陰っちゃうでしょ」
 体育館のキャットウォークで、高井ちゃんに貰ったのど飴を舐めながら、藤堂さんは私の手元から階下を覗き込む。十葉高校の舞台設備の古さに顰めっ面しているが、作業自体には結構興味があるようだ。
「ちなみに全部の色を重ねると、白色光になるから」
 そうか、と舞台上のホリゾントに映る丸い光に目を細めて、藤堂さんは呟いた。いろんな色の光が混ざると白になるのか。あの月は、色が無いんじゃ、ないんだね。

 春季大会が終わって、十葉高校演劇部はまたもや選外だったが、新入部員も加わり、後輩たちは次の舞台へと邁進している。屋上から発声練習の声が聞こえてくると、心強いような懐かしいような気持ちになる。私はもう、屋上にはいかない。勉強もあるし、藤堂さんはタバコを止めた。

 久しぶりに卒業式で、藤堂さんと少し話した。初春の光のなかで、藤堂さんは笑っていた。いつかまたどこかで、一服したくなったら、付き合ってね。輝くような空には、白い月が浮かんでいた。
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