第1話 現場編

文字数 2,856文字

ドカッドカッドカッ
ドカッドカッドカッ

馬2頭で、ロンド郵便局とデリー郵便局間を、今日も早朝便が走る。
今年のクリスマスは担当地域の人口増えたこともあって、速達便もめちゃくちゃ増えて、強盗までめちゃくちゃ増えた。
一頭で積みきらないこともあって、2人一組で走ったが、サトミだけダンクとセシリーの相棒を担当したので、余計に走った。
と言うわけで、期間限定2人一組だ。

その、帰りだった。
デリーを出て行程の半分も過ぎた頃、また奴らがやって来た。

パンパンパンパンッ!

銃声に、後ろを走るサトミが2発ナイフで弾き、あとをうっかり避けた。

キキンッ!バスッ!バスッ!

「あー、しまった!避けちまった。やっちまったぜ、プレゼントに穴開いた。あーーくっそ」

クソッタレ、また来た強盗、呼んでねえ!

「また来たよ、王子!」

「後ろまかせろ!走れ!走れ!!」

命知らずの強盗達が追ってくる。
クリスマスで急ぎのプレゼントが最高潮に多く、年末もあり郵便物はゲロ多い。
つまり奴らも稼ぎ時だ。
俺はセシリーのでっかい馬、ナイトに荷物のほとんどを載せ、真後ろに俺の馬ビッグベンを付けてその護衛に徹した。

ポストアタッカーは、早馬の速達便だ。
戦後相変わらずの物資不足の中で、こんな国境近くの田舎街ではゲリラ崩れの強盗は相変わらず多い。
俺達ロンド郵便局は、そんな中で1市3町分の郵便を受け持っているのだが、いつもなら怖くて敬遠するクセに、強盗は半殺し野郎とあだ名のついた俺にさえ、向かってくる。
年末世界中こんななのかよ、軍は装甲車まわせ!

「よう、いい加減にしねえと俺もブチ切れるぜ!」

キンキンッカンッキンッカン!

腰からサバイバルナイフを取って、後ろから撃つ奴らの弾を背中ではじいて行く。

「半殺し野郎に構うな!奴はナイフ1本投げるしか脳がねえ!
手はず通りにやれ!」

後ろから追ってくる強盗が、一気に道を外れて左右に広がった。

「王子!右まかせて!」

ジャッキンッ!
セシリーが自慢のスパスを取り、フォアエンドを引いた。

「了解!」

バンバンバンッ!

奴らは一斉に銃を向け、そして引き金に指をかける。

「キシシシシ!俺がいつまでもぬるい奴と思うなクソ野郎ども」

腰のベルトから散弾の弾を3つ取り、右前方に投げた。
そして、背の日本刀鰐切雪雷をぬき、思い切り落ちてきた弾丸のケツを後ろに向けて叩く。

カンカンキン!バンッ!バーーーンッ!!

弾は叩かれた瞬間、打ち出されて破裂して広がり、後ろの4人に命中した。


「ギャアアアアアアア!!!!!」


広がる散弾に、自ら突っ込む強盗は銃を撃つ間もなく全身を撃ち抜かれて馬共々ひっくり返る。


「おっ!おかしらああああ!!」

後ろにいて散弾を逃れた男は、倒れる前の馬に巻き込まれて落馬した。
それを見た手下達が、標的を荷物からサトミに変えた。

「この半殺し野郎!殺す!」
「荷物なんざどうでもいい!!半殺し野郎を殺せ!!」

タタタンッ!タタタンッ!タタタンッ!

一斉に撃ってくる奴らに、スッと下がりセシリーの馬と距離を取る。

「 いいぜぇ、来いよクソども 」

ニイッとサトミが不気味に笑った。

左から撃ってくる3人の弾を避け、サトミが手綱を引きベンを一気に向かわせる。
そして、雪雷を戻すとグッと鞘を倒し、左手で鞘の下のフックを外した。

「駄目だ、ああ、俺はもうブッ飛んでる。


   お前ら!!運が悪いとあの世で後悔しやがれ!!   」


鞘の下をスライドさせると、黒い日本刀の柄が覗く。
それをグッと握り、黒蜜を抜いた。

「な、何だ!抜いたぞ!!なげえナイフだ!気をつけろ!!
散れ!散れ!ナイフが飛んでくるぞ!」

ギラリと輝く刀身に、思わず強盗達が叫びを上げて散る。
彼らにはわかっている。
どんなに撃ってもサトミに弾は当たらない。
そして、彼から打ち出されるナイフは正確無比だ。
だが、もうナイフを打ち出すとか生っちょろい物じゃ無かった。


「ククックックック、あああああああくそったれ!死ね!!」


彼はもう、毎日のあまりの忙しさにウルトラハイになっていたのだ。

ビュンッ!ガキンッ!

銃を撃ちながらばらける強盗達に向け、サトミが容赦なく黒蜜を振り上げた。
黒蜜の刃は柄を離れてワイヤーを伸ばし、その刀身が一気に男達の元ヘと飛んで行く。
サトミがその柄を横に振ると、ヒュンと風を切り、男の首を切り飛ばして落ちる瞬間空へと舞い上がる。

「ひいいいいぃぃぃっ!!!」

残る1人が、首の飛んだ仲間に恐怖してすくみ上がる。
だが黒蜜の刃は、容赦なくドスンとその男の胸を貫いた。

ピュンッ!

サトミが柄を上空に掲げ、ワイヤーの巻き取りのスイッチを入れる。
刃は血を振り落としながら、一気にサトミの元に戻ってきた。

「こっち終わったー!王子は?」

右の奴らを討ち取り、セシリーが後ろを向く。
だが、元々小さいサトミの姿は荷物でますます見えない。
道に戻ってセシリーのあとを追うサトミは、ポケットから取り出した小さく切った新聞で黒蜜の血糊を拭き、バッと背後に紙を散らして鞘に戻した。

「こっちも終わったぜ!あとの処理、通信機でポリスに連絡頼む!」

「りょうかーい!えーと、あーキャミー?!そう!また来たのよ懲りない奴ら!
うん、うん、大丈夫ー!ポリスに連絡よろしくね!
半分過ぎたからもうちょっと!
あ、うん、うん、りょうかーい!オッケー

連絡完了!王子!お疲れ愛してるぅ!」

「まだ気を抜くな!前向いて走れ!」

「はい!ハーイ!」

2人、ロンドへと一直線。
だが、サトミが苦い顔でうつむく。

「あー、また切っちまった。くっそ、俺の平和を返せ!この野郎!」

堅気の仕事じゃ黒蜜抜かねえって決めてるのに、つい……ついやっちまったクソー


プルルルルル、プルルルルル

ジャケットの内ポケットで、また電話が鳴った。

「なんて間の悪ィ奴だよ!デッドか?ボスなら切る!」

仕方ないので取る。

「何だ!今仕事中!年末はクソ忙しいんだ!かけてくるな!」

『総隊ー、微妙な作戦なんすよ、ボスがジンじゃ駄目だって、ですねー
あさって!迎えのヘリやりますから!ね?!覚えててくださいよ!
また今夜かけますからね!覚えててくださいよ!総隊!』

デッドの声が踊ってる。
切迫してねえクセに、何が駄目だ。

こっちの方が今は切迫してんだよおおおおおお!!
年末こんなに荷物多いって、知らねえ!何だよ!サンタって郵便局かよ!!
しかも、俺宛てとかねえじゃんっ!!親は何してんだよっ、くそったれ!

『もしもし?もしもし?聞いてるンすかっ?!総隊!』

くっそっ!!

「うるせえっ!!俺に頼るな!自分たちでやれ!」

『えー、そんなこ……』ピッ!

「あああああああ!この電話捨てていきたいっ!」

つまり!俺は、郵便局で働きながら、軍のある部隊の総隊長もやってるってこった!
なんでだっ!
何で俺は身体が1つしかねえんだよ!


「  ぶっ、 分身!!!  」


叫んでみたが、何も変わらねえ!クソッタレッ!

「えー?王子、何か言った?」

「何も言ってねえ!」

俺は鼻血出そうなほど忙しく、それはクリスマスの夜まで続いて、すべてのプレゼントらしき荷物を届け終わったのは26日だった。
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