第2話 戸別配達編

文字数 2,774文字

クリスマスウィーク最終日、26日金曜日。
土曜は午前あるけど、クリスマス振り替え休暇でデリーとの中継のみで戸別が休みだ。
クリスマスも終わり、それでも遅れてやって来たプレゼントがまだ駆け足でやって来る。
でも、だいたい今日で終わりって事なので、ラストスパートで馬のケツに山ほど詰んで戸別に回る。

だが、

回っても回っても山が減らない。
どういう事だよ、誰か後ろから積んでんじゃねえのか⁈

「あー、終わらねえ、終わらねえ。まだ半分しか積んできてないのによ。
午後の便だって山ほどあるのに、終わらねえ。」

ドンドンドン、

「こんにちは!ポストエクスプレスです、速達のお荷物でーす!」

返事がない。やたら待たされる。
声の限りで叫ぶ。

「ハリー・モリソンさん!速達でーーーーーーーーす!」

「 ……んあ?あー…… 」

やっと返事らしき物が聞こえた。

がっ!!

ダンダンダンダンダン
俺のレッグシェイクも、今日は最高潮だ。

クリスマス翌日午前だ。

つまり、みんな夜遅くまで飲み歩いてパーティして、寝てる奴ばっかでなかなか出てこない!

郵便局、馬鹿だろ!休みにしろ!!

ガチャッ

「なんだよ、うるせえなー」

「速達です。元払いですので、サインお願いします。」

「チッ!なんだよこれ、プレゼントだって?!なんで昨日持って来ないんだよ。」

うるせえええ!!!

みんな同じこと言いやがる。
うるせえ!遅く出した奴に文句言え!!

「申し訳ありません。当方は規定の方法で運びますので、日付の指定は出来かねますので。」

「なんだよ、シット!娘からじゃないか!俺はガッカリしたんだぞ、さっさと持って来いよ!!
見ろよ、なんだよこれ、穴が開いてる!冗談じゃあないぞ!」

あれ、あーこれ、俺が昨日うっかり避けた奴だ。
何だ、こいつのプレゼントだったのか。
キヒヒヒヒヒ!
ざまあ。

「申しわけありません、クリスマスは強盗の数が増えて、対処に追われておりまして。
受け取り、どうされますか?」

空いた穴じっと見て、その場で箱を開けてみる。
クマのぬいぐるみには、足の毛がちょっとかすって剥げてたけど、問題なかった。
メッセージカードに、パパへとある。

「あー、」

お、やるか?いいぜ、俺は殴り合いオーライだ。
このモヤモヤを吹っ飛ばしてやるぜ。
こいつの頭吹っ飛ばさない程度に。

だが、男はメッセージカード見ると声上げて、俺の顔見てちょっと悲しいような微妙な顔になった。
ちょっと家に入って戻ってくると、ニッコリ笑ってヒョイと肩を上げる。

「悪かった。ヤーヤー、俺が悪かったよ。すまんな。
仕事お疲れ、これチップだ。ココアでも飲んでくれ。坊やも大変だな。」

「え?は、はあ。ありがとうございます。」

サインして、5ドルと一緒に伝票渡して手を上げ、ドアを閉める。

あーー、またチップ貰っちゃった。
今日は最初みんな機嫌悪いのに、なぜかみんな最後は慈愛の表情でチップくれる。

なんだかなー、

なんか、俺ってカワイソウとか思われてねえ?
まあよ、クリスマスは休めないんだってガッカリしてる奴もいたけど、俺は教会も行かねえし。

クリスマス、年明けってだいたい作戦が多いんだよな。
……油断してるから。 ……殺しやすいし。

あーーーー!!いかん!いかん!

俺は善良なポストマンだから。
さあ、次だ、客が待ってる!急がないと!


「あーーー!いたいた!サトミーーー!!」


キャミーが郵便局から突然追いかけてきた。
あーこれは滅多に無いアレだ。

「なに、なんかあった?」

「特速便!メサイアからデリーまでお願い。」

「へえ、珍しいな。メサイアからデリーか。結構距離あるな。」

「婚約者に指輪だって。出し損ねて相手が滅茶苦茶怒ってるから、アタッカー最強最速で頼むって。」

キャミーが笑って親指立てる。

「まあ、そりゃあ俺だろうな。」

「って事で、ここはあたしがやるから局に戻って装備付けてよ。
戻ったらまた配達よっ!今日中に終わらせなきゃ!
今夜の打ち上げ、ちゃんとケーキ準備してるからね!」

「馬には何かある?」

「ポストエクスプレス事務所より、馬への報奨目的にてリンゴ10個ずつ。
今日すでに届いてる!」

「おお!ベン、良かったな!」

「ブヒヒヒ、楽しみ〜」

「オッケー!ほんじゃメサイヤ行ってくる!」

「ちょ、防弾装備!ちゃんとしなさい!」

「そのうちなー!」

「こらーー!!」





と、言うわけで俺は東のはずれのメサイヤに向かった。
メサイヤ側はマジ田舎のなんも無い所なんで、強盗とか一度も無い。
メサイヤは簡易局のバアちゃんが家でのんびりやってるとこで、現金の扱いも取り次ぎなので普通の家だ。
とは言え、1度強盗が来たとかで外に3人、中に1人死んでて、ショットガンの弾の補充頼まれたことがある。
店内は血しぶきのあとがそのままで、どこか血生臭い。
5回逮捕歴があるらしい、怖いこわ〜いバアちゃんだ。俺は怖くない。

メサイヤに着くと、バアちゃんがすぐに出てきた。

「やっぱりお前さんが来たねっ!」

「よう!速達取りに来た。」

ベンから降りて声をかけると、バアちゃんはシャキシャキ歩いてくる。
今どき時代遅れのドレス着てるんだけど、いつも真っ黒の喪服みたいなドレスだ。
ドレスは武器隠すのに便利らしい。
元殺し屋だという噂もあるが、さあ、どうだろうなあ。
まあ、こんな辺境で1人で郵便局やろうってんだから、普通のババアじゃないことは確かだ。

「これだよ、本局にも連絡したから、デリー本局までだ。
小さいけど換えはないからね!盗られんじゃないよっ!」

伝票と箱の入った袋を差し出してくる。

「はっ!誰に言ってるよ!婆さん長生きしろよ!」

「余計な世話だよ!さっさと行きな!
ああ、そうだ、ちょっと待ちな。」

腰にぶら下げたがま口バックから、袋を取り出し、ほらよと渡してくる。
赤いリボンがくっつけてあって、メリー何とかって書いてある。

「えっ、これプレゼント?」

「まあね、ヒマだから作ったキャラメルだよ。メリークリスマス。」

「キャラメル?キャラメルって何だ?
キャンディは知ってるけど、キャラメルって食ったことあるかわかんない。」

「まあ!キャラメルも知らないのかい?ゆっくり口に入れて舐めるんだよ。
お前さん用に甘〜く作ったからね。」

「えっ!俺用に?俺の為に作ったの?!」

袋一杯に四角い茶色が1個1個ラップに包んで入ってる。
俺はもう、このババアに胸が一杯になった。
ババア、マジ凶悪ババアだと思ってたのに、天使じゃん!

「ありがとうバアさん!俺、大事に食うよ!メリークリスマス!」

ハグすると、まあまあ!と喜んで頭をなでてくれる。
で、笑って手を振り出発した。
なんか、さすが手作りだけあっていい匂いがする。

嬉しい!
嬉しいけど、
美味そうなんだけど!


食えない。


気持ちと香りだけで十分だ。
え?なんでって? そりゃあ、ここで死ぬわけには行かねえだろ。
俺は手作り信用出来るほど、バアさんと付き合い長くない。
世の中そんなもんだ。
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