第5話 打ち上げ編

文字数 3,324文字

超速の特送便で、直行した3時半の届け先に急ぐ。
そこは家の外からもわかるくらい、まだパーティーの真っ最中だった。
ここは別の名字の奴が同居してるシェアハウスって奴だ。

「マジか、この荷主の男、なんで3時にこだわったんだ?」

近づくと、どんどん大麻の匂いがする。
くっせえ!臭え!
俺は遠慮したい。
スカーフで口元覆って、ピンポンガンガン鳴らして、ちょっと離れる。
まさにラリってる派手な女が出てきた。

「ちょっとお!ケイト!郵便!マジで来たわよ!
あたしが3時に来なきゃ別れるって、ケイトが言ってるっての!
ばっかみたい!マジで信じてる!
キャハハハハ!」

あー、まったく嫌な案件だ。
胸くそ悪い。女の意地悪かよ、いい迷惑だぜ。

しばらくすると、赤毛を三つ編みにした、そばかすの女が急いで出てきた。
俺を見ると、ドアを閉めて家から離れるよう背を押す。
場違いなほど、普通の女だった。

「ごめんなさい、この臭い、あなたの身体には良くないの。
ありがとう、大変だったんでしょう?」

「いえ、仕事なので。
元払いですので、こちらにサインを。こちらがお荷物です。」

「あ、ごめんなさい、チップ持ってくれば良かったわ。
うふふ、意地悪だったんでしょうけど、私嬉しいわ。」

荷物の袋から箱を取り出し、嬉しそうに顔をほころばせる。
俺は伝票を直すと、家をチラリと見てささやいた。

「余計な世話だろうけど、あの家は出た方がいいぜ。」

「ええ、ありがとう。年が明けたらデリーに行くの。
これ、彼から婚約の指輪よ。クリスマスに来られなかったの。」

「そいつはいい。じゃあ…… お幸せに!」

「ありがとう」

女が手を出して、握手すると、俺はグッと親指立てて、彼女と別れた。
人なんて色々だ。
それでも、あんな極彩色の中で、あの女は自分の色を保ってる。

「あんた、大した女だぜ。
さて、局に戻って戸別に回るか!ケーキ!ケーキ!」

ケーキを励みに、局に戻ると、まだまだ山のようにある。
みんな何でギリギリまで送らないんだよ〜
普段は手紙が多いのに、クリスマスウィークだけは小荷物が滅茶苦茶増える。
物が箱なので、すぐに袋一杯になる。
ベンに詰んでると、キャミーが戻ってきて、また積み込む。
一般郵便も同じだ。局内みんな、黙々と仕事して口数少なく、シンとしてる。

「もうひと頑張りよっ!サトミ!」

「おうっ!」

局を出ると、ダンク達も戻って手を上げ、無言でうなずき合う。
俺達郵便局員は、すでに戦友のような様相で一丸となって必死で郵便物を配って回った。




そして………………


俺達のクリスマスが終わった。

クリスマスウィークが、終わった。


「「 やっとクリスマスがおわっっっったあああああああ!!! 」」

「終わったぞオオオオオオ!!!」

「この野郎、無事終わったああああ!!」


ダンダンダンダンダンダン!!
バンバンバンバンバンバン!!

郵便部門の全員が、足を鳴らし、机をガンガン叩いてお祝いする。


「「「「「 おっつかれーーの、カンパーーーイ!! 」」」」」


凄まじい量の郵便物に奔走して、奔走して、疲れ切った頃にクリスマスは終わる。
金曜日終業後の局内で、毎年恒例飲み潰れ会が始まった。
スタッフの宗教入り交じっているので、聖歌やツリーは無い。ただ、忙しかったの慰労会だ。

明日はエクスプレスだけ午前中業務が残っているので、毎年金曜打ち上げだ。
いつもは郵便物であふれる中央のテーブルに、ビニール敷いて酒と近所の店から取り寄せた料理が並ぶ。
空きっ腹でガブガブシャンパン開けて、ベロベロに酔っ払うまで飲んで騒ぐ。

まあそんな大人達はほっといて。
サトミは1人、端っこで用意されたケーキに囲まれてホクホクだ。
彼のリクエストは、とにかくケーキ、ケーキを所望する!だった。

彼には特別席が用意され、その前のテーブルには特注で砂糖をたっぷりかけたスノーホワイトケーキのホールとたっぷりチョコを使ったオペラケーキ1本に、でっかいシュトーレン1本だ。
好きなだけ食っていいと言われたが、もちろん残すなんて考えてない。

「フフフフ、俺は全部食うぜ!全部だ!こんな美味そうなもの、ミサトにももったいねえ!
おおおー、なんか砂糖いっぱいの白いのと〜、わっ、これすげえいっぱいフルーツ入ってる!
あと、なんかたっぷりチョコのケーキだ!!
うおーどれから食べようかなー、えへ、えへ、白いのからじっくり食おう。
何だこれ、俺こんなに幸せでいいのか〜?」

まずは白い砂糖かかってるのからと、フォークで取って一口頬張った。
外の白いお砂糖が、口の中でふわっと溶けて、中からバター挟んだケーキが……
あああ!超甘い!脳みそが癒やされる!

「あーー、うめえ……ハァ……やっぱケーキって奴最高!
あー、早くシャンパン飲んでみてえ」

「わははは!何だおめえ、ケーキにコーラか!お子ちゃまだからコーラーっ!」

ダンクは早速出来上がっている。
ビールはいいけど、シャンパンには弱いらしい。俺には違いがわからない。

「そうだなー、18から解禁だから、まだ遠いよなー」

ギャハハハハ!遠くの下品な女の笑いに顔を向けると、ミサトがボンボンをバリバリかじって酔っ払っている。
あー、あれボスから機嫌取りに送ってきた菓子じゃねえか。
ウイスキー入ってる奴だから持ってきたのに、自分で食ってやがる。

「あーめんどくせえな。」

仕方ねえので、ケーキを置いて行く。

「あーー、兄ちゃんだ、兄ちゃん、神ー!神の兄でーーす!キャハハハハ!はうっ!」

ドターン! 足を引っかけ床に倒し、手足後ろに縛って転がし武器を探る。
やっぱり後ろにナイフ持ってやがる。足にも、靴にも、腕にも、ポケットにはハンドガンかよ。
何しに来たんだよ、こいつは〜
身体中の武器という武器を抜き取り、俺のウエストバッグに入れた。

「ギャハハハハ!兄ィ!兄ちっこーい!兄ィ!ギャハハハハ!」

「うるせえっ!てめえ、明日飯抜きだ!この野郎!お前には早い」

「えー、だってぇ〜、やだ〜、……チンチンの毛ェ〜毛がねー」

「えっ?毛?」

慌てて口を押さえて、ブンブン首を振る。

「何でも無いから、気にしないでくれ」

滝汗で笑顔が引きつる。
ミサトはやがて、ブツブツ言いながら寝ちまった。
仕方ないので、事務所の仮眠ベッドに寝かせておく。

戻ってケーキの所に行こうとすると、ガイドが前をふさいだ。
何か微妙に目が据わってる。
何だ?このシャンパン、妙にみんな酔っ払ってるぞ。
みんなのカンパがいつもより多かったからって、いつもより高いのを買ったって言ってたけど、このシャンパンのアルコール度数どれだけあるんだ?

「はっはっはっ、今年はお前のおかげで助かったよ〜」

ガイドが、俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
俺は髪を指で整えながら、ムカッときたけど大人な笑顔で返した。

「やーほんと凄かったなー、何人殺ったかおぼえてねえや〜」

「いやー、そりゃ駄目だ。お前はまだ子供なんだからな、そう言う時はな……」

あーマズい。この神妙な顔のガイドは駄目だ。お説教タイムが始まりそう。

「わかったよ、今度、今度シラフで話聞くから」

一歩一歩と後ろに下がる。

「はっはっはっは!サトミー!ごくろー!」

「ごくろー!」「ごくろー!!」「ごくろーであーる!」

バンバンバン!シャンパン飲む女子連中に、背中を強烈に叩かれまくった。

「痛い痛いいたーーーい!てめえら、か弱いフリしてやがるな!」

このクソ!痛い!

「ひーっひっひ、サートーミー、お前あだ名変わったんだってよー」

あー最高の酔っ払いリッターまで来た。
俺は早く1人でケーキ食いたい。

「お前、半殺し野郎から、皆殺し野郎に昇格ー!!カンパーイ!!
ヒャハハハ!物騒な奴ー!!」

「な、なにぃ!冗談!」

クソッ!こっちまで殲滅部隊の親玉みたいな名前ついちまった。
もういい!俺はケーキ食って帰ろう!

「リッター!お前明日早出だろ!飲み過ぎんなよ!」

「ぶあーーか、俺ァ飲んでる状況がシラフなんだよ!ヒャハハハ!」

「あー駄目だ、明日また酒臭くてデリーに苦情言われる。
俺はもう、ケーキ食って帰る!」

俺は元いた場所に戻ると食いかけのケーキに手を伸ばし、シュトーレン一本持って口を開けた。


ババババババババババラバラバラ


ガタガタガタ…… 窓ガラスが振動して音を立てる。
突然、ヘリの音が建物を揺らした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み