よくある来客

文字数 2,333文字

 皆さんごきげんよう。突然ではあるが私は田舎で暮らす一人の男性だ。田舎といっても、程度もあれば種類の違いもあるだろうが、まあ、とにかく一目で田舎だなという田舎に住んでいる。ここは私にとっては地元なのだが、おそらく都会で生まれ、都会で育ってきた方々にはあまり信じられないようなことを紹介しよう。あらかじめ言っておくが、これは私がいる田舎の話で、田舎の程度や規模や種類で多少の差異は出るということだけ断っておこう。
「ちょっとあんた聞いてんのかい? そんなに目を引っ込まして。最近見ないと思ったら引きこもってたの?」
 まずこれが田舎としての特徴のうちの一つ。容赦なく来客が来る。まあこれは当人の人付き合いや、近所の関係性によるところが大きいが、何せこちらがいかなくても向こうから頻繁に来る。来客した際の要件は様々だが、何となく来たぐらいの、本当に手土産片手に話に来たぐらいで頻繁に来る。特にご年配の方が多い印象だ。
「いや? まあちょっと仕事で疲れちゃいるけど」
 これは私の発言なのだが、これは田舎あるある、というより地元育ちの特徴なのかもしれないが、来客の多さゆえに昔から知っているご年配の方が多くなる。そうなってくると関係にもよるが、敬語を使わなくなってくる。私のようにそんな環境で育っているものからすれば祖父母のようなものだからだ。もちろん誰彼構わずそのような口調で話すわけではない。
「まあ大変だね。横田さんとこの長男は帰ってきたっていうけど、あんたはよく続けてるね。横田さんとこの長男は仕事辞めて帰ってきて一緒に子供と奥さんもつれてきたっていうんだから、さっちゃんも大変だわね。向こうの家族ともけんかしてきていられなくなったん点だから」
 これは田舎では有名な話だが、とにかくよその家族の情報の出入りが早い。早すぎるぐらいに早い。しかも余計な尾ひれがついてきていたりもする。これはご年配の方に限らない話だが、実はあまりしっかり人の話を聞いていないのに、しっかり聞いた気になって、他人に話してしまうことが多くの場合は原因だと思う。決して本人たちが悪く言おうと思って言ってるわけではない。と思いたい。
 それとこの噂話というのは勝手に外から見ただけでされている場合も非常に多い。まあ、田舎に限った話ではないが。よく火のないところに煙は立たないというが、湯気や霧を煙と見間違えて騒ぎたがる人というのはいるものだ。
「そうなのかい。まあ、いろいろあって大変なんだろうさ」
「あんたそんな大変ったって、仕事辞めてどうするのさ。子供までいるのに。さっちゃんだっていい思いはしないんじゃないの」
 田舎の老人たちには察するという能力は期待しないほうが無難である。なのでどうしてもやめてほしいときははっきりとした意思表示が必要になる。意思表示をしたところですぐに転換してくれるかどうかは別だが。特にこの会話の途中に興味がなかったり、人の家庭事情にあれこれ言うなという態度をあまり感じ取ってくれることはない。まあ確かに横田さんの家庭事情には同情する部分もあるかもしれないが、それが他人の口から語られるのはあまりいいものではないだろう。しかし、話したくてしょうがないのだ。いや、話したくてしょうがないわけでもないのだ。口がほぼ勝手にオートで動いているのだ。全自動おしゃべりマシンだ。田舎の一部のおばさまたちは気性も荒い場合が多いので余計に口が悪いまま全自動で言葉が出てきている。
「そういえば今日はどうしたのさ。その手に持ってるの」
「あ、そうさあんたこれ、こないだ庭の木切ってもらったしょ。これよかったらたべて」
 いま私の横には大量の肉とおそらく自分のうちの畑でとれたであろう野菜たち、それと段ボールのビールがおかれている。田舎では買いだめをする家庭が多い。それは田舎ゆえに買い物に頻繁に出かけるのが手間だからだ。そのため、飲み物は段ボールで購入、食材は買いだめして冷凍、野菜は自家栽培か農家からハネ品を譲り受ける。これが割とな量なのだ。事実、私自身農家さんへ出面へ行った帰りには持っていきなと言われて大量の野菜をもらってくることが多々ある。しかも不思議なことに、農家さんは農家さんで家庭菜園をしている。それも帰り際に取ってきて渡してくれる。もちろん金がない私にはありがたい話なのだが、物事には限度と節度がある。とてもではないが、二~三人で消費しきれる量ではない。
 あとご年配の方々は基本的に若い男をみんな大食漢だと思い込んでいる節がある。その影響もあるのだろう。
「あら、なにさ。そんな気なんて使わんでよかったのに。かえってごめんね」
「何さあんたいいんだ。うちの畑で今年は大根をさ、少し多めに作ってみたんだ。したらこれ、太いのはいいけど、こんなんだ」
 持ち上げられた大根は非常に太いが、少々短い。まるで株のようだ。
「なにさそれ、そういう品種じゃないのかい」
「ちがうよぉあんた。毎年のところはちゃんと長いのにさ」
 長いのは大根ではなく、話のほうだ。皆さんには伝えていなかったがかれこれ五時間ぐらいいる。ずっとしゃべりっぱである。これも田舎の時間の流れによるところが大きい気がしてる。帰るそぶりをとるが、あくまでそぶりだけで終わる。本当に何かしらの時間が迫ってこないと変えることはあまりない。意思表示の強さがここでも求められる。

 ひとまず日常の一幕で私が住んでる田舎らしさを一部を紹介してみた。最初にも言ったように、これはあくまで私のいる田舎の話であり、世代や家庭の立ち位置、地域差などで違いは大きく出てくるとは思う。
 しかし、田舎とはある意味で特色が過ぎるコミュニティが多いことは確かであるとは思う。
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