プロローグ

文字数 563文字

 今、この国では約一億二千万人という人間が住んでいるが、その約1割程度がある力を手にしている。
 能力。それも運動能力や勉強能力といった一般的なものでは無い。飛ぶ、捻じる、潰すといった、通常では考えられない規格外な力、いわゆる魔法みたいなものをいう。

 日本ではここ数十年、能力者の数は少子化に反して増加傾向にある。これを知る者は皆、人間の進化と口を揃えて言った。
 しかし、それはこの国に限ったことではない。他国でもその力を手にする者が日に日に増加している。
 そして、人間の進化ともいわれたその能力は、時に悲惨な事件を生み出すこともあった。

 能力者。彼らは国の治安、国家を脅かす存在であり、我々人間の敵である。
 そんなある年、能力者を殲滅することを目的としたとある部隊が密かに現れた。非合法組織〝Keep Order〟。彼らは命の重さを天秤にかけることはない、冷酷無情な人間の集まりである。

 •••

「すまない」

 四・五疊程の狭い部屋で、暗闇の中ある男が中年男性の首をナイフで切り裂いた。
 今月の任務はこれにて終了。何か特別なことが起こらない限り、呼び出されることはない。
 男は疲労からか、くたびれた様子で地べたに座り、壁に寄りかかった。

「…命に重さはない」

 月明かりのみが照らす部屋で、朧げな表情を浮かべながらそう独り言を呟いた。
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