第1話

文字数 1,000文字

あ・つ・い…
朝から何度つぶやいているだろう。
 
例年よりも長引いた梅雨が、やっと明けたのは夏休み直前で。
夏休みに入ったとたんに、うだるような猛暑が続いている。
これが夏期講習でもあって学校に行ってるなら、勉強するのはイヤだけど、少なくともクラスの子たちとしゃべって気を紛らすこともできるし、なんといっても教室にはクーラーがついている!!
ウチにもクーラーはあるんだけど、おばあちゃんがケチでつけさせてくれない。
『窓を開けてたら風が抜けるんだから、扇風機で十分』とかなんとか言って、部屋のドアを閉めてるとわざわざ開けに来る。
まったく、プライバシーも何もあったもんじゃない。
おまけに『要らない』って言ってるのに、窓に風鈴なんて下げちゃうもんだから、うるさくてかなわない。
セミの声だけでも鬱陶しいのに、ときたま風まぐれにリリ~ンとか鳴っちゃうもんだから、さらに鬱陶しさ倍増。
早くお父さん単身赴任から戻ってきてくれないかな。
 
そう、私はお父さんが単身赴任で外国に行っているので、同じ市内に住んでいるおばあちゃんの家でふたり暮らしをしているのだ。
市内にはお父さんと住んでいたアパートもあるけれど、おばあちゃんが『コドモが一人暮らしなんて絶対ダメ』と言って鍵を隠してしまったのだ。
ひとりで住めてたら、クーラー使い放題なのに。
「もう!、暑いったら暑い!!」
私は畳の上に寝転がって、はだしの足をバタバタと動かした。
お気に入りの麻のマキシスカートのすそが動きに合わせて舞う。
「また、そんなかっこうしてみっともない。宿題はやったの?勉強は!」
おばあちゃんが通りすがりに、部屋をのぞきこんで小言を言う。
「もう!まだ夏休みに入ったばかりじゃない。宿題とかちゃんとやるから放っといてよ」
暑いのも、セミも、風鈴も、おばあちゃんのお小言も、めちゃめちゃ鬱陶しくて私のイライラの原因だ。
でも…
 
「由美、あなたヒマなんでしょ。だったらおつかい行ってきて」
「ええ?こんな暑い中を?」
「暑いのは、みんな同じです。それとも庭の草むしりする?」
「…おつかい行ってくる。何を買ってくるの?」
「このメモに書いておいたから。お金はこれ。暑いから帽子かぶって行きなさい」
「やあよ。小学生じゃあるまいし」
「じゃあ、おばあちゃんの日傘使いなさい」
「それもイヤ。オバサンみたいだもん」
「日射病になってもしりませんよ」
「そんなもの、ならないもん。いってきま~す」
 


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