第2話

文字数 1,000文字

私はお金とメモをスカートのポケットにいれて、商店街の中のスーパーに向かって歩いて行った。
(まったく…孫づかいが荒いんだから。みんな今ごろ何してるかな。香織は合宿って言ってたし、久美は家族旅行に行くって言ってたし。あ~あ早く学校始まらないかな)
おばあちゃんが車の免許を持っていないから、ちょっと遠くにあるショッピングモールには連れて行ってもらえない。
それどころか自転車にも乗れないので、家に自転車がない。
自転車でもあれば、借りてどこかにサイクリングに行けるのに。
毎日学校と家の往復だけ、それはまだ我慢できるけれど。
休みだというのに、どこにも行かれず家にいるか、スーパーに行くかだけの毎日にはうんざりしてしまう。
これもイライラの原因。
けれど。
 
スーパーでメモの品物を買い込み、重い買い物袋を提げて家路につく。
「…木元?」
横を通り過ぎようとした自転車が止まり、私に声をかけた。
「あ、高橋くん?」
声の主を確認してドキッとした。
こんなところで、クラスメイトに会うなんて。
「やっぱり木元だ。後ろから見て、そうじゃないかと思ったんだ。…買い物?」
「うん。おばあちゃんに頼まれたんだ」
「重そうだな。カゴにのせてやるよ」
自転車を下りて私のほうに手を出す。
「いや、悪いよ」
「気にするなって」
「いいの?やさし~。ありがとう」
私は遠慮しつつ、買い物袋を手渡す。
 
高橋くんは私の買い物袋を、自転車の前かごに入れてくれた。
「マジ重いな。どこだっけ?木元んち」
「あそこの交差点を左に曲がって…」と家の場所を説明する。
「高橋くんは?部活?」
ユニフォーム姿に気づいたので、聞いてみる。
「そそ。こんな時間から始めなくてもいいのにな」
「だよね。こんな暑いときにしなくてもね」
並んで歩きながら他愛ない話をしているうちに、交差点が近づいてきた。
 
「悪い、木元。荷物ここまででいいか?」
交差点に着いた時に高橋くんが言った。
「俺、当番だったの忘れてたわ」
「あ、ごめん。ありがとう、おかげで助かったよ」
荷物を受け取る。
重い。
「じゃな」
高橋くんは自転車に乗って、交差点を直進していった。
後姿を見送ってから左に曲がり、おばあちゃんの家まで帰る。
「ただいま。荷物、台所に置いておくね」
 
部屋に戻りまた畳に寝転がる。
いつの間にか、イライラが消えていた。
窓を見上げると、夏の青空の海にたゆたう海月のような雲が見えた。
風鈴がリリ~ンと涼しげな音を鳴らした。
 

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