第1話

文字数 1,374文字

 電子カルテの普及により医療の現場で変わったことが多々ある。
 救急外来でのカルテ記載もその一つだ。
 自分は、問診、診察所見、検査結果、その時点での診断、鑑別診断などを項目や順序にこだわらずに、時間の経過に書き並べている。
 「ストレッチャーから診察台に自力で移動」
と記載すれば、少なくとも意識はあって、運動麻痺はないことが分かる。
 診察所見を書いている時に、看護師さんの「血圧は 136/80 です。」という報告があれば、すぐに
 「BP(血圧) 136/80 mmHg」
と記載する。
 取り敢えず肺炎を疑ったら、その時点で
 「#肺炎の疑い」
と記載する。
 その作業の繰り返しで、だんだん病気を絞り込み鑑別診断をし、検査を指示し、その結果を見て、再度、検討し、診断、治療へと進む。
 ところが研修医の中には、自分流のカルテ記載の様式をテンプレートに貼り付けてある強者(つわもの)がいる。そこには
 【主訴】【現病歴】【既往歴】【家族歴】【身体所見】…
の大項目が並び、さらに【身体所見】は[意識レベル][瞳孔・対光反射][頭部][頚部]…と細かく観察項目が網羅されていて、そこにどんどん書き込んでいくのだ。マニュアルのチェックリストに似ている。
 だからいつも症例報告のような整然としたカルテが出来上がる。しかし、患者が診断に至った過程が全く分からない。入院患者が救急外来からなのか、一般外来経由なのかも分からないことすらある。
 ある日、救急外来から入院した76歳女性のカルテを見て腰が抜けるほど驚いた。身体所見に「前立腺肥大なし」と記載されている。
 「記載が違っているよ。先生独自のカルテ記載の、【身体所見】の[前立腺]の欄に間違って書き込んだんじゃないの?」
 担当の研修医に尋ねた。
 「えっ!? 何か違っていましたか?」
 予想に反して研修医は意外だ、という顔をした。
 「だって、女性に前立腺はないだろう?」
 「そうですよ、ないから前立腺の肥大もないんです。」
 「?! よく分かんないなあ、その考え…。」
 その後、話は混乱し迷走した。話題は()れて男女差別、性的マイノリティー、同性婚などの問題に発展した。個人的な見解はここでは控えるが、ひとつだけこれは譲れない事実がある。
 それは、ヒトには雌雄(男と女)があるということだ。解剖で男性と女性の違いを()の当たりにした。生理学で男性、女性それぞれの体内環境の違いを勉強した。そこには合理的で機能的な美しさがあり、それは神秘的ですらある。
 どういう理屈か知らないが、76歳女性の「前立腺肥大なし」の記載は間違えだと思う。

 さて写真は 2017年1月7日、隣の酒田市にある台湾料理店で食べた火鍋である。

 外が寒い中、火鍋は体が温まる。鍋にはS字型の仕切りがあって、11種類もの薬膳が入った、2種類のスープが同時に楽しめる。「白い」豚骨の旨味とコクの「白湯(パイタン)」と「赤い」奥行きのある深い辛さの「麻辣(マーラー)」だ。
 スープの味は2種類それぞれ異なりどちらも美味しい。しかし胃の中に入ってしまえば混ざって同じになる。
 男女もそれぞれの特徴を有する。しかし社会に出れば混じって同じになる。←のが理想だ。❨男女に社会的な立ち位置には差がないの意❩
 火鍋と同じだの。

 んだんだ。
(火鍋から少し強引に本文を締めくくった気がするが…。)
(2023年5月)
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