第2話

文字数 5,275文字

長くも短くもない休み時間、教室内ではクラスメイト達は“死体の噂”の話をしていた。
「ねえ知ってる死体の話」 「うん二十年前に行方不明になった生徒の遺体が
この校舎にあるって」 「この校舎に地下室があってそこに…」とヒソヒソお互い話していた
その頃校庭、植えられた木の幹をずっと眺めて
「働き者」と呟く春子がいた。
その様子を見ていた下級生が隣にいる上級生に質問をした。
「?…先輩、あのひと木をじっと見て何してんでしょう?、科学部の研究?」
「ああ、桜井春子ね、あいつは元からあんな感じだよ」一応同年なので理解しているけど
まあ変だなという言い振りで上級生は答えた。
「一年の頃からな、独り言をぶつぶつ言ったり、地面をずっと眺めるからクラスメイトから
変人として見られているんだ」
「へえ…変人か」
とやる気のないような口ぶりで下級生は相槌を打つ。
「まあ、あんなのはほっといていくぞ、先生が待ってるし」と下級生を連れて教室へ向かう
上級生、それをすれ違いハルの元へ近づく二人がいた、それを見てハルは
「おお、カナにアキ、なんやどないしてん」と関西弁混じりの話し方をした
「なんだよそのへんな言い回しかた」
「えへへ、いわゆる関西弁だよ」
とニヤニヤしながら答えるハルに対してカナは。
「関西の人はそう喋るのかー、ちなみにうちは東北だよ」
「もっとなー、わかりやすくゆーとなこんな話かたやねん」とさらに方言っぽく話すので
アキは「なんだそれ」と呆れていった、カナはプッと思わず吹いた。
「…あんな、アキ カナ」とハルが二人に何かを話そうとするが
キンコンカンの授業開始のチャイムがなった、
「そろそろ授業だ早くいこ」と三人は校舎へ戻った。
授業中の先生の話はただ黒板に書かれていた数式の解説をした、どんだけわかりやすく
言っても数学は針の穴に糸を通すような事ばかりで、自分の頭には入ってこない
なので考えていた秋人は「今日の晩御飯はなんだろな」といつも考えていた
ちらっと横を見てみると、春子は窓の方向を見ていた、
時々ハルは上の空なことが多いが
今日の表情は何かを見つけたような顔をしていた。
「まあ、小鳥でも見つけたんだろ」と思いカナの方にも目をやったが彼女は真剣に
授業を受けていた、
午前を終えて三人で、食堂内で昼食を取る事になった、アキは母親が作った弁当、カナは手づく弁当に対し、ハルは買ってきたパン(ハムとか挟んである惣菜のやつ)だった
「お前毎日なんか買ってくるよな、前はカップ麺だったし」
「好きなんだからいーじゃんか」と反論するハル
「たまにはみんなと一緒のお弁当にしたらいいのに」とカナは言った。
それに耳を貸さずかいただきますっと言ってパンをかじった、その時ハルは
頭に少し手をやった。
「ん?ハルどうした」と秋人が聞いてきた。
「うんなんでもないよと」とハルは答えたがまっすぐ何かを見つめていることにカナが
気づいた。
「ハルちゃんどうしたの、そんな壁の方を見て」
「…あのへんに何かいたような気がするんだ…」
「はぁ?何にもいねえぞ壁のしみでも見たんか?」
それは違うと首を振るハルだが、直ぐに切り替えてパンを食べ始めた、二人も
特に気にせず昼食を黙々と食べ続けた。
それからの午後の体育はいつも別々だったが今日は校庭内を走るだけの授業だった。
「サッカーがしたいぜ」とか「走るなんてやだなー」という男女の愚痴を聞きながらも
他の生徒より決まった周回を終えた秋人は、ハルとカナの二人はどうだろうと体育座りしながら
見てみた。二人はかなり後ろでゆっくりと息を切らして走っていた。
元々二人とも運動は苦手な方だっし特にカナが一番運動ができなかった。
カナはハルに手を引いてもらってやっとだったし、ハルもかなりハアハアとなっていた
二人が回り終えたのは授業が終わりかけた頃、その時はだいぶ疲れてたので秋人は
カナとハルの方を持って木陰で休んで自販機の飲み物を持ってきてやった。
着替えを終えた後、ハルは二人に呼びかけて一緒に帰ろうとするが、
「悪いなハル、俺は今日先生に呼ばれてな。」
「あたしも用事があるのでごめんね」とちょっとぷくっと拗ねた彼女は一人自宅へ帰っていった
「まあたまにはいいだろ…て言うの何回めだろう」と一人自分で突っ込んでぶつぶつ独り言を言う彼女、
「あー退屈、世界は退屈だ…」とその辺の石ころを蹴飛ばして、歩いていたところだった
「………」聞き取れなかったが誰かがつぶやいた声がする、その方向へ振り向いたけど
何もいなかった。すると頭が少しズキっと痛み出した。
「おかしいな最近は体調も悪くないのに…体調も悪くするような事はしてない…多分」
と思いながらも、「風邪気味かな」と切り替えてそのまま帰った。
それから日が経って、
ある雨が降りそうな曇りの夜の事、黄色の軽自動車が静まった住宅街を走ってた。
「こんな時間かよ…、雨が降り始める前にさっさと帰りたいぜ。」そう独り言を言いながら、
運転手は車を走らせた。次の交差点は青信号だったので、スピードは緩めずそのまま進んで、
次の瞬間トラックと接触した。ザーザーと降ってきた雨が大破した軽自動車を濡らして、
誰が通報したかわからない救急車のサイレンの音が深夜の町に響いた。
翌日その話は明日高校でも話題になった、
「ねえ知ってる?…てか聞いた?。」と女子の一人は口を開いた
「体育の⚪︎⚪︎先生が帰り道で事故に遭ったって」
「聞いたよ、飲酒運転のトラックとぶつかって意識不明らしい、
だからしばらくは体育はないらしい」
と昨日の事故のことで話が盛り上がっていたが、一人の男子が何かに気づいた
「ん?」「どうしたの?」
「いつものあいつらは?、なんかあったらうちらのグループに入るあの二人いないぞ」
「ほんとだ、今日は休みなのかな?。」
話している二人の後ろには力無くうなだれているハルがいた、「ハル……おい春子‼︎」
返事に答えるように顔を少しあげたが、やはりだるそうな感じだった
「ハルちゃん大丈夫?、ずっと、こんな感じだよ」
「うん、ここんところ頭痛が頻繁に起こるようになったんだ…、それに最近何かがいるような気がするんだ」
しばらく黙ってからハルは口を開いた「それより何?、あたしの心配だけじゃないでしょ」
「あっそうだ、あんな、カナんとこの親が知り合いの葬儀でいないから…」
「うん」
「ハル、お前のとこへ泊めてやれないか?俺のところは無理だから」
机にもたれかかり春子は
「親に電話してみるわ」と一言添えた。今日の授業を全て終えて夕方、
二人で帰路を歩き、車を止めるガレージのあるどこにでもある普通の家に着いた、そこがハルの家でカナは彼女の家へ上がった。
春子と一緒にリビングへ入った、その部屋に料理の準備をしている母親、
ソファーでくつろぐ弟と、テーブルで座っている父親がいた、そのうち弟が春子の元へ行き
「お姉、貸したゲームどうしたんだよ」
「あー、すぐ返すから待っててよ」
「もう一ヶ月も貸しっぱなしなんだよ!」とぎゃーぎゃーと口論する二人を見て
「ははは…っ騒がしいけどまあ、ゆっくりしててよ」と彼女の父親が静かに言った。それからは食事中も春子と彼女の弟の言い争いは続き、母親がもうやめなよと叱っていたのを見ながら
食事をした。お風呂に二人で入っている時
「背中を洗いっこしようよ、洗ってよ。」と言われ少し顔を隠しながらも洗った、
その時にハルは言った
「カナっていいよねー。」
「へ?。」とびっくりしつつも
「なんで?」と返した。
「だってさ、あたしより頭いいし、明るくてコミュ力高いし、おっぱいでかいし」
それを聞き特に反論やそうだよとはいえなかったがすぐにハルは繰り返し
「後おっぱいでかし」と答えて、カナはハハハ…と苦笑いした
次に話したのは小さい頃の話をし始めた
「あたしね小学校の頃は人と関わるの得意じゃなかったんだ、ほとんど一人でいたことが多かったし、周りから何言われていたかはわかんなかった、けどよくは言われてはなかったかも」
続けて春子は言った
「でもカナって意外と人の輪の中ズケズケと入るの躊躇ないじゃんかそのへんが本当に羨ましいよ」
少し照れながらもカナはそうだよとは言えなかった。
「カナ、そろそろ交代だ」とくるっとカナの方へ向き彼女の背中を洗い出した。
そのあとは二人一つのベットで寝ながら話をさらに続けた、部屋の中には風景や人物の絵が描かれているキャンバスがあり、床には筆や絵の具が散乱していた。
そのことには触れずカナは彼女の家族の話をした
「ハルちゃんの家族って明るくていい人ばっかね」
「そう?なんか関西ノリって感じだと思うよ」
カナは少し笑ったが少し表情を暗くしてこう言った
「…あたしの家族はこんな感じではなかった、
小さい頃は両親が不仲で毎日大喧嘩してそのまま離婚したんだ」カナの声色は少し重かった
「それに二人とも、あたしを育てる気がなくて
そのまま児童養護施設に中学まで預けられたんだ」
「?じゃあ今の両親って」
「うん、親戚のおじさんとおばさん」
ゴロンと転がり顔を横に向けて
ハルはつぶやいた
「意外と苦労してんだ…いっつも明るいから」
「辛い時期のほうが大きかったよ捨て子っていじめられてたし。」
その後は言葉は詰まったけど、すぐに言葉を吐き出した
「…あのねハルちゃん…お風呂の時にねあたしの明るいところが羨ましいと言ったけど、本当は無理をしているんだ人と関わることはそんなに得意では…」とふとハルの顔を見ると
スースー寝息を立てて寝ていた
「あらら寝ちゃった…ハルちゃん」と寝ている彼女に呼びかけるように話す
「アッキーやハルちゃんに出会えて本当に良かった」
後ろから腰に腕を回し抱き、カナもそのままな眠りについた…。
次の日の朝、ハルの家の前で秋人は二人を待っていた。
「おうアキ、待ってたんだ」
「そんな気ではねえけど、まあ行くぞ」と、プイッと顔をそらした秋人に、
ウフフっとカナは笑った。学校へ通う間はただ黙って三人は住宅街を歩いていた。
秋人の後ろをなんの表情もなくとことことあるくハルだったが
その時だった、あの頭痛が襲ってきた、痛いと思う余裕もなく意識を失い、
ハルは秋人に寄りかかった。
「おい…ハル…ふざけている場合じゃ…」…何も言わずそのまま春子は倒れた。
「ハル‼︎」
「ハルちゃん‼︎」
二人は春子に駆け寄り体をゆすったが返事がない。カナは急いで電話をかけようとしたが、
突然のことに動揺をして手が震えていた。閑静な住宅街には彼女に呼びかける二人の声と、
後から来た救急車の音が響いた。ちょうど夏が近づいた七月中旬最初で最後の出来事だと、
後に秋人とカナは思った。
その出来事から次の日になってからハルの事は彼女のクラス内で話題になっていた、
「ねえ聞いた?、うちのクラスの桜井春子が昨日倒れたんだって。」
「うん知ってる、秋人くんや日向さんもいたんだっけ」
「そうそう…そんで救急車で運ばれて…アレ?」
「どうしたの?」
「なんかまた二人いないけど…」
このグループが話をしている午前九時前から三十分くらいさかのぼる、
学校から少し離れた小さな病院にハルは運び込まれ現在も彼女は眠っている。
病室の前には母親が椅子で座っていた。その彼女の前に秋人とカナがやってきた。
「こんにちは」とカナが頭を少し下げて挨拶すると
「こんにちは」と春子の母親も返した。
特に大した挨拶をせず秋人は
「ハル…いや春子さんの体調はどうですか?」
「うん…命には別状はないのだけど…」
「だけど?」カナは相槌を打つよう尋ねた。
「全く目を覚さないのです、息だけはしてるけどまるで眠っているようで」
その後は続けずただ沈黙する空気に秋人は彼女に聞いた。
「いつ頃目覚めますか?」秋人は聞いた
春子の母は首を横にふり何も答えなかった、その後ろから扉の開く音がした、
出てきたのは春子の弟ヒロキだった彼は二人にペコリとお辞儀して
母親に暗い顔を見せないように
「…言ってくるよ」と言って学校へ行った。
「…ヒロキはいつも春子と喧嘩をしているけど、一番お姉ちゃんが大好きなの。」
彼女の家族なかの良さに心底羨ましく思いながらカナと秋人は、最後の挨拶をして病院を出た
その後も二人は話し合って歩いていた。
「アッキー、あたしもハルちゃんのように倒れたら、家族は心配してくれるかな?」
「ん?してくれるんじゃねえか、というかそんな話は今はやめろよ」と、とがめる
「あっごめん」それから赤信号の前で止まっていた時、カナはぼそっと言った。
「あたし男の子として生まれたかった…」
「うん?何?」
「あっなんでもないよ…あのねアッキー」
「あん、これ以上話題はないぞ」
「…アッキーさ、ハルちゃんと付き合えばいいと思ってたの」
それを聞いてムッとしかめた秋人に気付いてないかカナは
「なんかね…相性いいと思ってた…ハルちゃん彼氏いないし…」
と笑いながら話しかけると
「バカ言うんじゃねえよ…そんな資格は俺にはねえよ…」
秋人は歩行者信号の方へ顔を向けて行った
えっと驚いた表情をするカナを置いて青信号を渡る秋人そして
カナはただ何も言わず立ち止まったまま信号は赤になった。
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