第11話『幽霊屋敷⑩ 見たこともない量のタピオカ』

文字数 4,279文字

シェハウスの廊下にて、睨みあう菜々子とピーチ。

ピーチ「なんかキャラがフワフワと固定されないけど、大丈夫?」

菜々子「あぁ、ソレもこの物語の醍醐味やけん。」

ピーチ「イラつくなぁ…その余裕…。」

ピーチは、肩に乗せ、トントンとリズミカルに叩いていた刀を上段に構えた。

菜々子「余裕?そんなモンどこにあんのよ。アタイ、産まれたての小鹿みたいに足ガックガクなんですけど。」

菜々子は、下に構えた刀をそのままに、ピーチに向かって突進を始めた。

菜々子「いっせーの…」

菜々子はそのまま刀を上に振り上げ…。

菜々子「せっ!!!」

ピーチ「でぁっ!!!」

ガキィン!!!という耳障りな金属音と共に、菜々子が振り上げた刀と、ピーチが振り下ろした刀がぶつかり合った。

ピーチ「あのさぁ…。」

菜々子「なによ。」

ガチガチと、しのぎを削る互いの刀をそのままに…。

ピーチ「アンタごときが、マジで勝つツモリで居るワケ?」

菜々子「勝つか負けるかじゃないんよね。」

ピーチ「じゃぁ、何でアンタはココで、こんな事してんのよ。」

菜々子「認めて欲しいんよね、母上様にも、PARTYのミンナにも。」

ピーチ「………。」

既に菜々子とピーチの顔は、触れ合う寸前まで近づいている。

菜々子「だけんチコには絶対に渡さへんのや!!」

ピーチ「えっ?ちょっと言ってる事が情緒不安定…。」

菜々子「このPARTYって場所をくれたチコには感謝してるし、必ず母上様にも、この場所を認めさせる。」

ピーチ「だったら…。」

菜々子「だがしかぁし!チコには必ずアタイの前でひれ伏させて『すんませんっした!ナナ様が一番です!ナンバーワンではなく、もともと特別なオンリーワンです!!』って涙を流しながら言わせるんやぁ!!」

ピーチ「イロイロと大丈夫!?」

菜々子「黙らっしゃぁぁああああいいいぃぃいい!!!」

菜々子がそう叫び、ピーチの刀を大きくハジき飛ばした。

ピーチ「ぐっ…。」

ピーチは刀ごとハジかれ、後ろに数歩、よろめいてしまう。
そのまま滑るように地面を移動した菜々子。
剣先ではなく、柄の部分をピーチの腹に叩き込む。

ピーチ「つっ…!!!」

更に後方へとハジかれたピーチ。

菜々子「オイ時代錯誤のガングロ鎧ギャル。」(剣先をピーチに向けて)

ピーチ「……。」(腹部を押さえ、菜々子を睨むように見ている)

菜々子「ワカってる?カウントダウンはもう始まっとるんや。」

ピーチ「何のカウントダウンなのよチョベリバ。」

菜々子「バッドだってのは分かってるみたいね。」

ピーチ「何のカウントダウンかって聞いてるんだけど。」

菜々子「アンタ達が必死こいて守ろうとしてるモンがブッ壊れるまでのカウントダウンや。この場所守りたいんなら、我武者羅にかかって来んかい!!」

ピーチ「あのお方がアンタらみたいな生身のニンゲンに負けるワケがないの。」

菜々子「ヤッベ…。煽るのに失敗した…。今のアタイの一言で、逆上させて、スキをつく作戦だったのに、ハズイ!!」

菜々子は、刀を横に構え、回転した勢いで、横に一閃する。

ピーチ「そんなモン当たるワケないやろチョベリバ!」

ピーチは体勢を低くし、菜々子の一撃をかわし、そのまま菜々子の足を払った。

菜々子「なっ…。」

バランスを崩し、尻から地面に落ちた菜々子。
そのスキをつき、突くように刀を弾くピーチ。



ドッ…!という鈍い音と共に、ピーチの刀は菜々子の胸部を貫通した。



菜々子「ガハァッ…。」

ピーチ「フン…。クチは災いの元とはよく言ったものだな。」

その、菜々子の胸に刺さったままの刀を、ピーチは、菜々子の胸に足をかけ、一気に引き抜く。

菜々子「あああぁぁあぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

あまりの激痛に、体を仰け反らせて痙攣する菜々子。

ピーチ「さて、あのお方の元に行くとするか。」

刀を振り、菜々子を一瞥して踵を返すピーチ。

菜々子「待たん…かい…コラ…。」

全身で息をし、ヨロヨロと立ち上がる菜々子。

ピーチ「死にかけが…。」

菜々子「クチは…災いの元…、じゃない、クチほどにも…無いな…でしょうが…。」

ピーチ「?」

菜々子「ってアタイ、もしかして自分で自分をディスった?」

ピーチ「何故だ…。攻撃は、確かにオマエの胸を貫通したハズ…。」

菜々子「そんなモンでアタイを倒した気になってんじゃないわよ。」

ピーチ「一筋縄ではいかない…か。」

菜々子「アンタとの交わりが、物理的なのか、精神的なのか分かんないけどさぁ…。」

ピーチ「…。」

菜々子「過去の亡霊の、意志の残滓でしか無いアンタが、現役バリバリの、アタイに敵うワケないやん?」

そう言う菜々子の足は震え、持っている刀を支えに、やっと立っていられるかという状況だ。

ピーチ「オバアチャン?歩道橋を渡りたいの?お手伝いしましょうか?」

菜々子「あ…あぁ…。これはご親切に若い娘さん………ってコレ杖じゃないから!刀だから!!」

そうノリツッコミを入れる菜々子の胸からは、ジワジワと血がにじんでいる。

菜々子「ガッハァアッ!!!」

ひときわ大きくセキ込んだ菜々子が大量に吐血した。

ピーチ「もう死にそうじゃないの。」

………かに見えたが、ソレはよく見ると、大量のタピオカだった。

ピーチ「………。」

菜々子「ゲホゲホ…。」

ピーチ「コレなに…?」

菜々子「タピオカ。」

ピーチ「そうじゃない!なんでこんな見たことも無いような量のタピオカを吐くのよ!」

菜々子「あの、えっと、それぇ、チコやイッちゃんやハルやヒロの分もタピオカ買っててぇ…、このシェアハウスでミンナで飲もうと思ってたらぁ…、なんかぁ…、全部アタイが飲んじゃった、みたいなぁ…。」(指で髪をクルクルしながら)

ピーチ「酒の飲みすぎならともかく、タピオカの飲みすぎで吐くヤツ初めて見た…。」

菜々子「酒の飲みすぎと言えばさ!ヒロったら、岩田屋の外のベンチんトコで吐いて、そのまま朝まで寝てたんだって!」

ピーチ「へぇ…。岩田屋って…。」

菜々子「知らん?あの天神にある…。」

ピーチ「福岡のローカル情報なんか知るかい!!」

ピーチは再び刀を上段に構え、菜々子に向かって振り下ろす。

菜々子「ちょっ!アタイ、タピオカまみれなんやけど!!」

菜々子も再び刀を下に構え、ピーチの一閃を受け止める。
タピオカはさておき、菜々子の胸からは、容赦なく血が噴き出している。

菜々子「ぐぅっ…。」

ピーチ「本来なら即死レベルの傷だけど…。」

菜々子「なん?アンタが幽霊やったけん、アタイは死なずに済んだとでも言いたいと?」

ピーチ「でも、もう放っておいても死にそうね。だいぶ血を流してるけど。」

菜々子「血とタピオカは、若いウチに流せって、よくオバア様が言ってたわ。」

ピーチ「大正時代にもタピオカがあったの?」

菜々子「オバア様は大正じゃなか!!って、ツッコミ間違ってるけん!!」

菜々子が渾身のチカラを込めてピーチの刀をハジく。

ピーチ「ぐっ…。ドコにそんなチカラが…。」

菜々子「アンタはアタイには勝てない…。」

菜々子は再び刀を横に一閃する。

ピーチ「学習しないようね!」

次の瞬間、菜々子が一閃した刀の剣先に、両つま先で立っているピーチ。

ピーチ「こんな芸当、見たこと無いでしょ?」

菜々子「見たことは無いけどさ、アンタ、パンツは見えてるよ?」

ピーチ「この期に及んで下ネタを!!」

菜々子「イヤだって事実やもん。ペンギンさんの柄の。」

ピーチ「具体的に言うなぁぁああ!!」

そのままピーチは、剣先から跳躍し、菜々子に向かって刀を叩きつける。
菜々子は、体を横にズラし、最小限の動きで、攻撃をかわした。
間髪入れずに再び刀を一閃するピーチ。
その一撃を受け止める菜々子。

菜々子「アンタにはさぁ…好きなアーティストおる?」

ピーチ「はぁ?好きなアーティスト?」

菜々子「アタイには居るんよ。極上の歌声で、アタイに元気をくれるアーティストが。」

ピーチ「だから何?歌は所詮歌でしょ?あんなオアソビで元気貰えるとか…笑止千万!」

菜々子「歌を、絶対に笑うな。」(凄い形相でピーチを睨みながら)

ピーチ「(一瞬、その気迫に気圧されて)ぐっ…。」

菜々子「ヒロは言ってた。『オレは、何度も終わりだと思った時に、支えてもらった、それこそ、生きるチカラを貰った歌がある』って。偶然か、必然なのか、その歌に何度も救われてるって言ってた。一生大切にするって。」

ピーチ「それが何?ただの時間稼ぎなら、トドメを刺させてもらうわよ?」

と言うが早いか、そのままピーチは刀を振りぬき、菜々子の刀を地面に叩きつけ、更に刀に向かって右足を勢い良く振り下ろし、ヘシ折ってしまう。

菜々子「なっ…。」

そして大きく刀を振り上げたピーチ。
そのまま叩きつけるように菜々子に向かって袈裟斬りを放った。

菜々子「ガッ…ハッ…。」

右肩から左脇腹に向かって、一直線に斬られた菜々子。
そのまま白目を向いて崩れ落ちる。

ピーチ「何が『歌を、絶対に笑うな。』よ。」(刀を振り、鞘におさめる)

そう、どこかしら悲しげに呟くピーチの耳にも、セン子の咆哮が聞こえてきた。

ピーチ「あのお方が呼んでる。」

声がした方へ足を進めるピーチ。

菜々子「待てや…。」

ピーチ「………コレじゃ、ドッチが幽霊か分からない。」

菜々子「も…もう…キャラがどうとか、ヤメた…。」

ピーチ「もう死にそうじゃない。あの人が呼んでるから、行かなきゃ。じゃね。」

菜々子「待てって言っとるやろがぃ!!!」

ピーチ「そんな大声出すと死ぬわよ?いくら物理的な貫通はしていないとは言え…。少なくとも、アンタは何度も斬られた。」

菜々子「(刀を支えにして立って)ハァ…ハァ…。このまま負けたら…二度とチコの歌を聞けん…。絶対に…ハァ…オマエはブチ消す…。消滅させてやるけん!このままやと、絶対にオマエラが集まった後で、チコの歌声が響いて、アタイらが復活してって流れなんやろうけど、絶対に今ココでオマエは消滅させてやる!んで、そのチコの美味しいトコ総取りパターンを阻止しちゃる!」

ピーチ「歌を聞きたいんだか聞きたくないんだか…。悪いけど、あのお方は、そんなに気が長くないの。もう、こうなったら一瞬でトドメを刺すわよ。」

菜々子「上等や…。かかってこいや…。」

ピーチ「もうキャラ作る余裕が無くて素が出てるわよ。」

菜々子「そんなモン気分次第じゃ。数秒後には消滅しとるヤツには関係なか。」

ピーチ「素手のアンタが、勝てるワケない。気でも失ったフリしてりゃ生き延びられたモノを。」

菜々子「もう何も関係なか。オマエを消す。それに、素手じゃなか。」

そい言いながら、剣先が折れた刀をピーチに向ける菜々子。
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